理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
でも、塩、こしょう、片栗粉、小麦粉の類は棚の中段に置いていた。
「粉ものは冷蔵庫保存が鉄則よ」みたいなアドバイスはここでは少し脇に置かせてもらう。
1週間が経過する間に、義母はモノをあちらこちらに旅させる傾向がある。
その理由や発想はどこからどうつながっているのか法則が見えず、
おおよその見当がつくこともあれば、行く度に謎に思うことも多い。
文房具が台所の引き出しに入っていたりというのはよくあることだ。
今回は食器棚に置いていた片栗粉が主役。
片栗粉は、おかずにとろみをつけたい時に使ったり、ひき肉団子を作る時の繋ぎに入れたりすることが多い。
紙のパッケージのまま出し入れし、それをチャックバックに入れている。
小麦粉は元々チャックがついているものを使っていて、いつも同じ場所にある。
しかし、片栗粉だけがこれまでに何度か旅をしていた。
空いたカトラリーケースに片栗粉の袋をすっぽりはめられた状態で、電話台の下にあったり、
電話台の扉中にあったりもした。
私は謎に思いながら、元の位置に戻していた。
「これ、どうしてここに置くの?」とは聞かない。
なぜって義母は「私はそういうことはしないよ」と答えるから。
先日、その謎が解けた。いや正確には私なりの予想がついたというだけだ。
その日も片栗粉は袋ごと台所の食器棚から食事をするテーブルのある隣の部屋に移動していた。
戻しながら中を見ると、明らかに片栗粉の紙袋が破れていて、中身がこぼれていた。
動かしているのだから、中身がこぼれることはあるだろうけど、袋が切れているのはおかしい。
そ、そうか!
義母はこれを、砂糖だと思って持ち出したのだな。
謎が解けた鍵は、義母宅でよく見かけた粉糖だった。
粉糖。私はお菓子作りをする機会がほとんどないので、粉糖を購入したことがない。
だから義母宅でそれを見かけた時は、とても不思議に思った。
夫に、「お宅は粉糖を普段使いしているの?」と聞いたこともあったが、知らないし、そんな習慣はないと言っていた。
でも、義母がまだ自分で買い物に行っていた頃は、砂糖のほかに粉糖を購入していたようだ。
糖尿病になるほど甘党の義母は、粉糖をどのように摂取していたのだろう。
以前書いた通り、どうやら義母はサツマイモの甘煮にきび糖をふりかけて食べていたことがあったようだから、(メリー・ポピンズじゃないから 参照)
粉糖もトッピングとして愛用していたことがあるのだろう。
想像すると少し怖い?
で、片栗粉である。
片栗粉の白さときめの細かさは粉糖に似ている。
きっと義母は片栗粉を粉糖と思ったに違いない。
かけて食したかどうかは定かではない。舐めてみて甘くなくてやめたかもしれない。
スプーンは近くになかったから、どばどばかけて食べたということはないだろう。
甘いものは「甘くておいしいね」と必ずリアクションするので、
それはない、と信じることにする。
この仮説を立てた私は、当然、片栗粉も義母の手の届かないところに置くことにした。
そういえば、近年、カップ式の飲み物自販機に「とろみ」ボタンがついたものがあるというニュースを目にした。
飲み込みづらいお年寄りのために、とろみをつけられる仕組みで、
コーヒーとかココアとか、スープとかにとろみがつくらしい。
片栗粉を粉糖と間違えていたかもしれない義母は、
今のところとろみがなくてもしっかり食べ、飲み、問題なく飲み込んでいる。
それはとても幸せなことだよね、と思いながら、新しい定位置に片栗粉を置いた。