理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
義母はどこかで記憶があるだろうけど、でもやはり初めてのことのように取り組む。
料理の片手間に、
「ここにデイって書いて丸で囲んで!」とやっていたが、
最近は難しくなってきた。テーブルの向かい側に座り、書く欄を指し示しながら、
「ここにデイって大きく書いて。じゃあこれを丸で囲もう」
これを繰り返す。私が来る日は私の名を。
ヘルパーさんが来る時間も書いてもらう。
「〇時、ヘルパー」って書いてと言うと、義母は
「〇時、ヘルパァ。」と書いてしまう。
まあ、でもなんか可愛い感じもするからいいか。
1カ月分を書くのはなんてことなかった義母が、
1週間分書き終えると、終わろうとするので、
「さあ、次の週行ってみよう!」と全盛期のドリフのいかりや長介さん並みに気合を入れる。
義母が書いている間に、自宅から持参した伊予柑をむく。
柑橘のいい香りが部屋に充満すると幸せな気分になる。
義母の筆も乗るかなと思っていた。
しかし、伊予柑の香りに反応はない。
それが少し寂しい。
柑橘が大好きなはずなのに、香りに気づかないのかな。
私が何をしているかはあまり気にならないだけかしら。
それくらい、カレンダーを書くことに集中しているのだから、それはそれでいいのか。
他の月より日にちが少ない2月の予定を書き終えた。
「お疲れ様。さ、伊予柑をどうぞ!」と皿を出すと、あまり大きな反応もみせずに食べた。
お腹がすいていなかったのか、その伊予柑はいつもの義母の食べる速度とは比べものにならないくらいゆっくりと食べ終えた。
なぜだろうと考えた。
柑橘を誰かに剥いてもらって食べたことがないのかもしれない。
大好きな柑橘だとビジュアルから理解が出来なかったようだ。
そういえば、ルビーグレープフルーツを剥いて出した時も、明太子のようなおかずと思ったのか、
ご飯の途中に箸で食べていたことがあったっけ。
夕飯を食べ終えた後、食器洗いを義母に託す。
一段落ついたらトイレへと促し、諸々の交換を終えたら私は帰路につく。
「お義母さん、じゃあトイレに行きましょう。」
そう声をかけたタイミングで、ビニールをガサゴソする音が台所から聞こえた。
それは、カゴに入れてある買ってきたばかりの蜜柑の袋に手を伸ばして開けようとした音だった。
蜜柑に目がない。
袋を開けたら最後、高速で食べきるのだ。
「お義母さん、さっき伊予柑食べたからね、蜜柑は明日にしてください」
「はい。」
とびきりいい返事が返ってきた。
私は知っている。私がドアを出たら、あの蜜柑の袋は真っ先に開封され、
7~8個ある蜜柑は、翌日には姿を消しているであろうことを。
剥かれた美味しい伊予柑より、自分でむく食べなれた蜜柑に軍配はあがる。
そういうものなんだ。