理由あって週イチ義母宅 PR

酷暑と書とお中元

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理由あって週イチ義母宅に通っていた。
これは、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、ちょっとしたホントの話だ。

義母が施設へ入所してからあっという間に一カ月が経過した。
半月の段階で、健診のため再会した時の話はコチラ。

安の一文字理由あって週イチ義母宅に通っていた。これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、ちょっとしたホントの話だ。週イチ義母宅通いが終わってから半月、久しぶりに義母に再会した日の話。...

そして今度は1カ月が経過して初めての面会日だった。
車のクーラーをどれだけ効かせても日差しがきつかった酷暑日。
マスクを付けエントランスで体温チェックをすると「ビービー」と警告音が鳴った。
37℃になっている。でも、この日は来る人、来る人がそうだったようで、
少し時間を空けて再度計ればクリアーだった。

ロビーで待っていると義母がシルバーカーを押して出てきた。
変わった様子はなく、不審そうにもしないで私たちと会話をはじめてくれた。
いや、会話というよりは、義母の独演会だ。絶好調!!

質問に答えてはくれるけど、なかなかどうして辻褄は合わない。
でも、この時空を飛び越える感じは昨日や今日のことじゃないからこちらだって免疫がある。
和やかに独演会の聴講者になり、時折インタビュアーになり、所々でツッコミ役になる。
夫婦で行くとちょうどいい感じ。
夫は、やっぱり最初に名前が出るのは兄のほうで、報われないと冗談ぶって言っていたけれど、そもそも兄弟で名前が似ていて間違いやすいのだから仕方ない。
「今日はすぐにアナタの名前も出ていたよ」となんとなくフォローしている感じもまた私のお役目だ。

少しすると男性職員さんが2枚の紙を持ってロビーに現れた。
「今日、午前中に書道サークルがあったので、〇〇さんにも参加していただいたんですよ」
そう言って、義母が書道している写真をA4の紙に出力したものを見せてくれた。

筆を握っている義母と、力強い「夏」という文字が書かれている。隣には見本があるが、思わず私は
「これ、上からなぞったんですか?」と聞いてしまった。
違う、隣の見本を見ながら書いたのだそうだ。

義母は書道を学校で教えてもいたのだ。
それにしてもすばらしい。筆を持ったのは何年ぶりのことだったろうか。
最近は文字もなかなか書けなくなっていたのだが、この書写の見事さ、力強さ。
「昔取った杵柄」ということわざの見本のような光景だった。

これをこの場にサッと持ってきてくれる施設の方のホスピタリティにも感激した。
「すばらしいね、流石だね!」とベタ褒めすると、義母は
「いや、まだまだこれはね……」と謙遜、
したのではなく、もうすっかり教師の口調でこうすればいい、ああすればいいと指導モードに入ってコメントを続けていた。

義母にとっての「夏」は、快適みたいだ。
さあ、そろそろ時間だ。面会時間が終わることになり、軽く手を握って、「またね」と声をかけた。
スタッフの方が「出口までお見送りしますか?」と語りかけてくれたけれど、義母はその言葉には反応せず、くるりと私たちに背中を向け、サクサクとドアの向こうに向かっていった。
義母がこの酷暑の日差しの何十倍もカラッとしてくれていることが、きっと私たちへのお中元だと思う。