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市子

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映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。

舞台『川辺市子のために』が映画になると聞いた時、「そうか、映画になるのか」となにか納得した。とてもおかしな言い方だが、そう感じた。
映像化の依頼の話は以前からあったのだという。

あの舞台が映画になって、川辺市子の役を杉咲花さんが演じると聞いた時、「そうか、杉咲さんが演じるのか」ととても納得した。やはりおかしな言い方だが、そうだよなぁと思った。舞台で作・演出をつとめた戸田彬弘さんが映画化にあたって、杉咲さんへお手紙を書いてオファーしたのだということは、すでにたくさんのメディアで取り上げられている。

あの舞台『川辺市子のために』が、映画では『市子』になると知った時、「そうか、『市子』なんだ」としっかり納得した。わかっていたわけではないのに、そうなるとわかっていたような気になった。

この現象はずっと続いていて、例えば、ビジュアルが公開された時、映画祭への出品のニュースを聞いた時、公開日を知った時、いろいろな情報を目にする度に、いちいち納得していた。
もちろん、直接映画に携わっていたわけではなく、それぞれのことが想像の範疇だったといいたいのではない。
作品が発するオーラみたいなものがそう受け止めさせるのだと感じた。
決して軽くはなく、正面から受け取ろうと思えば辛くもある作品だ。
でも「受け止めたい」と思わせる何かがあるのだ。

市子はその名を川辺市子という。でもその名を川辺月子と名乗ったり、呼ばれていたことがある。
市子には母・なつみがいる。市子には恋人・長谷川がいる。市子には妹・月子がいる。

映画の中でこれは次のように変わる。
市子には母・なつみがいた。恋人・長谷川がいた。妹・月子がいた。
同級生、職場先の友、母の男、それらもすべて「いる」から「いた」に変わる。

なぜそうなるかといえば、市子が無戸籍の人だからだ。
無戸籍だけど市子はいる。
無戸籍だけど市子はいた。
になるのかは、映画を観た人にはわかるかもしれない。

決して多くはないけれど、市子と関わった人たちが、彼女を語る。
よく、事件が起きた時に報道で近所の人や元同級生が容疑者を語る映像を見る。
「大人しそうだった」「そんなことをするようには見えなかった」「やさしかった」「暗かった」「他人と距離を取っていた」「キレやすかった」
それらを目に耳にする度に、どれも本当のことに思えないと思うことはないだろうか。
特に最近のことではなく、昔のことを語っている証言を聞く度に
そんなフィルターのかかった証言のどこを受け止めればいいのだろうと疑問に思うことはないだろうか。

スクリーンの中では、市子やその周りで起こったことが時を行き来して写し出される。
ひとつひとつの行動や言葉を納得は出来ないけれど、受け止めることが出来た。
少なくとも勝手に一方的に聞かされた印象ではないからなのだろう。

耳を澄ますようなエンドロールが終わり、観客はようやく受け止めていた時間から解放される。
そして想像や印象など曖昧なものを思ったり感じたりすることを許される、そんな気がした。

市子のこと、母・なつみのこと、恋人・長谷川らのことを受け止めた私たちは
日常で、身近にいる誰かのことを受け止めたいと思う。
受け止めていた、ではなく、受け止めている。でありたいと思う。

それは家族関係のことで悩みを抱えている人の話を聞くだったり
新しいことを始める人の決意にうなずくだったり
離れたところに暮らす人に会いに行き手をさするだったり
片付けられないという人に寄り添うだったり


『市子』

原作/戸田彬弘 戯曲『川辺市子のために』
脚本/上村奈帆 戸田彬弘
音楽/茂野雅道
出演/杉咲 花、若葉竜也、森永悠希、倉 悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆりほか

2023年12月8日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズシャンテ ほか全国公開

チーズtheater第8回本公演
舞台『川辺市子のために』上演決定


2024年2月3日(土)~2月12日(月)
サンモールスタジオ

作・演出/戸田彬弘
出演/大浦千佳、奥田努、田山由起、寺十吾 ほか

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