ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます
ASPイッツフォーリーズ公演 ミュージカル『聲の形』。
2011年に『別冊少年マガジン』に漫画が発表されて以降、リメイク、実写DVD、そして2016年の映画版も話題を集めた作品。そしてミュージカルへ。
主演の西宮硝子役を山﨑玲奈、石田将也役を島 太星という歌の上手い若者2人が務めることで話題を呼んでいた。特に、バラエティーで人気の島が舞台でどんな風に弾けるのかに注目。
物語は小学校の教室からスタートした。
自分と違うことを受け入れない。距離の取り方がわからない。加減を知らずコントロールができない。
それは大人でも子どもでもそうだ。
この物語の中では、やけにコントロールがきかない登場人物たちが、互いに作用反作用を繰り返す。観ていると正直なことを言えばしんどい。
止めろ!と止めたはずの人が、衝突の対象になったりするからだ。
でも思う。そうだったよなと。子どもたちの小さな世界は、自分が中心にいたらとんでもなく広くて深くてぬかるんでいたりカラッカラに乾いていたりする。もちろん暗さも明るさも希望もある。
そんな複雑な彼らの心情は、メロディーに乗ると伝導率がグンとあがる。
こちら側が耳を自然に傾ける、「友愛的傾聴」をとっているのかもしれない。そんな言葉はたぶんないけれど。
逆に台詞や動きでは、「それ、どういう感情で今、言った? 殴った?」と、審判員みたいな気持ちになる。「審判的視聴」、そんな言葉もないけれど。
山﨑玲奈演じる西宮硝子の、自分を抑え込む表情が絶妙だった。あきらめる、悲しむとか大袈裟に下を向くのではなく、抑え込む。それはミュージカル俳優として本当はもっとたくさん歌いたいであろう彼女自身とリンクする。
島が相当の曲数を歌っているからなおさらだ。
その島 太星演じる石田将也は、僕、歌ってます!感が想像以上に少なかった。ずっと歌っているのにだ。歌が上手い人にありがちな「僕、歌ってます。いい声で、ビブラート聞かせてます。気持ちいい~~」みたいな感じにならなかった。
それは彼の歌っていない時のしゃべり声のやわらかさとブレンドされてそう感じたような気もする。
たくさんの曲の中に、登場人物たちの名前がよく出てきた。フルネームで。
これ、斬新だったが違和感がなかった。
物語を説明する役割でもあるだろうが、名前にメロディーがついて呼ばれるのってなんかいいな。なぜそう思ったのだろう、そんな体験したことがないからだろうか。
劇中には手話もたくさん出てくる。聲の形だ。
違和感はまったくない。私なんかより10代、20代の人ならもっとかもしれない。
TikTokでは上半身、顔の周りでの振りがついたダンス動画が流行るし、
ダンスの振付には、歌詞をイメージした動きがつくことも多い。
体と言葉と感情は別々のものじゃないと無意識的に知っているからだ。
物語は彼らが20歳になったところで終わる。
昔あったこと、起こした出来事は、なかったことにはならない。
それがたまに顔を出したり、ひょんなことで引っ張られて出てきたりする人生が彼らには待っている。
でも、ただのハッピーエンド、この季節の物語でした……ではない、その感じが信用できた。
今、10代のど真ん中にいる人と一緒に観たかった。
そして、その5年後、10年後に「そういえば観たよね」なんて語れたらいい。
日常も同様に、何をくっきり覚えていて、何を上書きして、何をあいまいにするのか。
知りたいような、知りたくないような。
2023年10月4日(水)~10月8日(日)
サンシャイン劇場
原作/大今良時「聲の形」(講談社「週刊少年マガジン」所載)
上演台本・作詞・演出/板垣恭一
作曲・音楽監督・演奏/桑原まこ
振付/山田うん
出演/山﨑玲奈、島 太星、宮下雄也、大西桃香、德岡 明、河内美里、澤田美紀、神澤直也、杉尾優香、矢野叶梨、塩田康平、向谷地愛、入絵加奈子 ほか
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