私のアンフォゲ飯 PR

ハイカラおばあちゃんの真っ茶色のおかいさん

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、ひとつ前のNHK朝ドラ「舞いあがれ!」で、はじめの頃は舞ちゃんにいけずだった!? 事務員の山田さんを演じて話題になった劇団チーズtheater所属の俳優、大浦千佳さんです。

-- 千佳さんの忘れられない味といえば何を思い出しますか。
大浦 忘れられない味と聞いて、バーンっと強烈に頭に浮かんだものがあります。
それはおばあちゃんが作ってくれた茶粥です。

-- えーと、茶粥ってなんですか? 実はあまりなじみがなくて……。
大浦 エッ!? お茶で炊いたお粥「おかいさん」です。番茶で生米から炊くあれです。煮すぎて真っ黒というか真っ茶色になってたのがおばあちゃんの茶粥でした。
おばあちゃんが作ってくれた茶粥は冷やして食べてました。だから夏の食べ物というイメージですね。食欲がない時なんかは茶粥と漬物でシャーッと食べて終わりにしてましたよ。
両親が共働きだったので、保育園のお迎えは大阪に住んでいた父方のおばあちゃんがしてくれて、そのままおばあちゃん家でご飯を食べて、親がそこに迎えに来るというのが日課でした。そういう生活が小5くらいまで続いたので、おばあちゃんのご飯で育ったという感覚が強いですね。

-- おばあちゃんの茶粥の特徴を教えてください。
大浦 どうしてこんな大きな鍋が自宅にあるんだ! っていうくらいのでっかい鉄鍋で大量に茶粥を作っていました。それを保存容器に移して、冷やしておいて何回かに分けて食べるんです。
最初はさらさらした茶粥さんで、時間が経つとドロドロっとした食感になるんですよね。
知らない人が見たら、茶色い水の底の方にお粥が沈んでいる感じ、鍋の中はなんなの? って思うかもしれませんね。

-- 味も教えてください。塩味がついていたりするんですか?
大浦 塩味あったのかなぁ? 実は一番後悔してるのは、おばあちゃんに茶粥の作り方を教えてもらっておかなかったことなんですよね。
何回か自分でも作ってみたんです。大きなお茶パックに茶葉を詰めて鍋に入れてお米を煮るだけなんですけど、あの味は再現できなかった。
夏になるとあの味が食べたくなります。昼ご飯として食べたことが多かったかなぁ。
一日三食の中で、夜だけはお肉を焼いたりして豪華に……という感じだったので、朝・昼は質素でした。鍋がバーンっと出てきて茶粥と漬物。
「え、これだけ?」って子どもながらに思ってましたけど、キンキンに冷えた茶粥は最高においしくて、嫌いになることはなかったですね。
今、話しながらめっちゃ食べたくなってきました(笑)。

-- どのくらいの頻度で食べていましたか? お粥だからといって体調の悪い時に食べるものとは違いますもんね?
大浦 
結構な頻度だったと思います。ばあちゃん家・夏=茶粥という感じでしたから。
冷えた茶粥を自分でお玉ですくって食べるのが夏の定番でした。

-- そのおばあちゃま、2022年に他界されたそうですね。千佳さんがSNSに投稿していたおばあちゃまへのお別れの言葉がとてもあったかくて印象的でした。
大浦 
そうです、栗原さんが「いい文章だね」って言ってくださったあのおばあちゃんです。とにかく、ハイカラという言葉がとても似合うおばあちゃんでした。
おばあちゃんは小さい頃から結構貧しい暮らしだったようです。だからなのかな、華やかなことに憧れを抱いていたみたいで、昔から体を動かすことは好きだったこともあって、子どもたちの手が離れた頃から社交ダンスを習っていました。
憧れが強かったからか、一生懸命取り組んだので上達も早くて、先生にまでなりました。浦子先生と呼ばれて結構人気だったみたいです。大会とか舞台で踊ったこともあったみたいですが、私は結局一度しか観られなかったですね。

-- ハイカラだったおばあちゃんとの思い出、教えてください。
大浦 
一番の思い出は、おばあちゃんとの買い物かなぁ。小学生の頃は、天王寺の商店街を端から端まで二人で歩いてお店を見て、やっすい服とフツー絶対選ばないであろう派手な服を二人で「ソレええやん、アレええやん」って言い合って、どれだけ安く買えるかっていうのを毎週末のようにしてました。
おばあちゃんはいつも髪はお団子にして、グラサンかけて、でっかいゴールドのニセモンの指輪をつけて、爪は手も足も真っ赤。口紅も真っ赤。
そんなおばあちゃんとの買い物はどちらからともなく阿吽の呼吸で「行こか?」「ほんなら行こか!」みたいな感じでしたね。
ある意味戦闘モードで(笑)、「お兄ちゃ~ん、コレ安ぅならんのー? あっち、アレやったでぇ~」みたいな調子でしたね。私と身長もさほど変わらない小柄な人でしたけど、とにかくパワフルでした。

-- 茶粥が得意だったパワフルなおばあちゃま、原動力はなんだったのでしょうか?
大浦 
おばあちゃんの夫、つまり私のおじいちゃんは60歳で早くに亡くなってしまったんです。そこから先の24年間はパワフルさが増していた気がしますね。昔の人ですから、夫の世話、家族の世話を当たり前にしている日々から、じぶんだけのための時間になったので。社交ダンスのお仲間と旅行に行ったりして楽しんでもいたようです。
でも亡くなったのがコロナ禍真っ只中だったので、お見舞いにも全然いけず、それは心残りでした。

-- 茶粥を最後に食べたのはいつ頃でした?
大浦 
大人になってからもおばあちゃんに「茶粥が食べたい」とリクエストしたんですが、「めんどくせー」って言って作ってもらえなくなっちゃったんですよ。あの大きい鍋で作らないと美味しくないんですって。でもやっぱり歳を取ってくるとその重い鍋を出してくるのが「めんどくせー」と。そりゃあそうですよね。
いろんなもの煮込んできて、いろんなエキスも入っているあの鉄鍋(笑)。
その鍋で作った茶粥と漬物、最高でした。そういえば、おばあちゃんは漬物の中でも奈良漬が特に好きで、だから食卓は、茶粥と奈良漬で、茶色&茶色でした!!

-- 美味しいものって大抵、茶色です(笑)。ハイカラなおばあちゃまの人生が詰まった茶粥、どんな味だったのかなぁ。千佳さんもぜひまた作ってみてあの時の味、めざしてみてください。おばあちゃんとの素敵な思い出を聞かせていただきありがとうございました。

大浦千佳(Chika Oura)さん

1988年2月9日生まれ。大阪府出身。株式会社nora、劇団チーズtheaterに所属。
近年の主な出演作品に、劇団チーズtheater『ある風景』(作・演出:戸田彬弘)、『海と日傘』(作:松田正隆、演出:戸田彬弘)、深作組『アンティゴネ』『ブリキの太鼓』(演出:深作健太)など多数。2022年度後期NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』に出演し、山田紗江役で注目を集める。次回出演作は、2023年9月ぱぷりか『柔らかく搖れる』(第66回岸田國士戯曲賞受賞作品)。

 イラスト/Miho Nagai