拝啓、ステージの神様。 PR

同じことの繰り返しのような日々に愛をこめて。音楽劇『MONDAYS』

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ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます

客席に入るとステージ上にオフィスがある。
まだ誰も出勤していない、電気の点いていないガランとしたオフィス。
休日出勤した時とか、朝、一番先に出社した人だけが見る景色。

音楽劇『MONDAYS』の始まりは、意外だった。いきなり歌うでも踊るでも芝居が始まるでもない。この意外さがもうなんか嬉しい。

「同じことの繰り返しのような日々」という表現はよくある。
私も会社員時代は、基本的に同じ時間の同じ車両に乗り、同じコーヒー屋さんでいつものコーヒーを買い……みたいな日々を繰り返しをしていた。
長く月刊誌に携わっていたので、仕事は1週間単位ではなくて、月単位だったかな。
校了するとホッとして嬉しいけど、それは次の月の号の始まりで、いつもすでにちょっと遅れてる、追われているみたいな感じだったから、「ああー、またこの繰り返し〜」と思ったりすることもまああった。
フリーランスとなった今は、そもそも曜日感覚があまりないけれど、特に締切が重なったり、時間に追われている時に「ああー、またこの感覚の繰り返し~」と思うことは結構な頻度である。だから音楽劇『MONDAYS』で、これずっと繰り返している気がしません? という問いに先輩社員が、するさ、するけれどそれ言っててどうする。わかるけどやるしかないんだよ……と諭されるほんの少しの会話にギュインと来てしまった。
文句言ってても仕方ないもんね、わかる、わかるけど……。
正しさは優しいようで時に鋭利な刃物に思えるからね。
おっといきなり話が逸れてしまった。

ステージ上のオフィスでは、Zコミュニケーションの社員たちが、月曜日からの一週間を繰り返している。
その動きが決められた拍数とタイミングで繰り返されていることは、既出(レポートやパンフレット内)の通りだ。
何がすごいかといえば、動きはあくまでも人間としての動き、行動に見えていること。でも電気をつけるタイミングも、ドアを開けるタイミングも鉛筆が転がるタイミングも実は決まっているのだ。
舞台は生もので、ちょっとしたズレや独特の間が面白さを生むこともあると思うけれど、
この舞台はそうはいかない。しかもそれを一人でなく登場人物が9人いて、ぜーんぶ絡んでいるのだから想像するだけで恐ろしい。あぁ、観る側で良かった。

村田を演じるのは薮宏太さん。今、もっともサスペンダーと黒縁メガネが似合う男として薮さんをインプットした人は相当数いるはず。
広告代理店のプランナー(しかもオシャレな)らしくて、かなり後半、村田が広告代理店勤務らしい立ち居振る舞いをしてそれを冷静に解説されるシーンが出てくるのだけど、それがツボだった。
薮さんに歩数系がついていたとしたら、この舞台の一公演でいったい何歩になるのだろう。
もちろん数々のステージをこなしている方だから、もっとハードな経験もあるだろうけれど、『MONDAYS』の中では、先ほど書いたさまざまな制約の中で、上手から下手、上下の移動もかなりある。でもその上の方にも度々上がってくれるので、PARCO劇場のどの席からも作品世界を楽しめる。

村田の後輩、遠藤を演じる平間壮一さん。軽々とした身のこなしはたくさんの舞台で証明してきているが、その身体能力が遠藤の立ち居振る舞いとリンクしていた。
確かに!」と村田に相槌を打ちまくりツッコまれるシーン、あれも広告代理店(というかクライアントありきの仕事)あるあるだ。処世術としてちょっといい加減な人認定もされがちだけど、ファシリテイト力がある人って見方も出来る。
因みに、「確かに!」の間にたまに「やっぱり!」を入れて、そう考えた方がいい、◯さんならそう言われるのかもとも思っていたけど決めきれなくて、ああでも良かったです、、、みたいな「やっぱり挟み」も私は使っていた。これは社内の上の意見とクライアントの意向が微妙に合わなくて困る場合に有効。(なんか昭和っぽくてスミマセン)
でも何が言いたいかと言えば、そういう遠藤だから、ポーンと海外に行ってロンダのリンダとも仲良くなれちゃうんだね、きっと、ということ。

上昇志向の吉川を演じるのは南沢奈央さん。映画「MONDAYS」ではこの吉川を中心に話が展開する。自分に厳しいから他人にも当たりが強くなる。でもズルくはなれないから自分一人で抱えがち。
多分、「今日はノー残業デーです」と言われる朝が最も嫌い。そんなもの作るのは優しさじゃない、むしろ迷惑。はい、イケイケドンドン時代の考え方で、今そんなこと言ったら冷たい視線を浴びせられるかもしれない。でも吉川は信じて邁進している。
タイムループして何度も何度も出てくる、乗ってたタクシーが追突されて?頭をケガした時に「私のことはいいので⋯」と言うシーンに吉川が吉川である感じが出ていた。
南沢さんの声のトーンが、猪突猛進、上昇志向、余裕のなさをまとっていて、勝手に吉川の彼氏像を想像してしまう。タイムループを抜け出したら、幸せなデートが出来ますように。

デザイナーの森山を演じるのは森田甘路さん。牛乳がキーアイテム。今はペットボトルが主流だけど、紙パック飲料を愛飲している人って一定数いるよね。飲みかけが共用の冷蔵庫に入ってるの嫌だったなぁ。
で、ゴリゴリにカッコイイものを作る人がいつも飲んでるのが意外と極甘のコーヒー牛乳だったり、いちごオレだったりしてね。あ、また話逸れてしまった。
森田さんはご自身もしっかり推しを持つアイドルおたくなのだそう
「握手した手 洗いたくないない」(NEW DAY歌詞より)の気持ちとか、実物に合った時の距離感の測れなさみたいなもののリアル、最高だった。

村田の彼女、ちさを演じるのは吉本実憂さん。パンフレットでようやく「ちさ」という名前だったと知る人も多いだろうな。彼に連絡を取るのはいつも私、電話を切る度に、次はかかってくるのを待とうと決意するけど、結局またかけちゃう、みたいな感じ? 暖簾に腕押しの相手に、「お仕事頑張ってね」と必ず言えるの偉いよ!
一方、アイドルグループ1000%のナオナオ役は、あの裏の顔?が出るシーンが最高だった。ボトル缶コーヒーの空き缶が使われるのもリアルで実は声を出して笑ってしまった。
可愛いを正義に出来る吉本さん、踊るナオナオとコールする森山、見たかった(笑)。

たくさんの役を演じて大忙しなのが松尾敢太郎さん。ある時は、またある時は……という感じで神出鬼没。ちょこちょこと無下にされるけど、後半にかなり見せ場がある。
最初はん? アレ? という空気が流れて、やがてクスクスと笑いが起きてくる感じ、ニヤニヤしてしまう。下北沢の劇場に出たことがあっても、今はその道に進んでいない理由がわかってなんかそれもハッピーだよ。でも、映画のラストシーンでは魂入ってちょっと演技が上手くなっているのが幸せなんだよなぁ。

平一郎を演じるのは岡田義徳さん。仕事忙し過ぎて、仕事に愛と責任持ちすぎていて家族サービス出来てない感じ、元上司に重なる〜って人、多いんじゃないだろうか。私が思い浮かべるめちゃめちゃ家族思いの元上司は、真冬でも必ずアイスコーヒー飲んでいて、もうそれだけで、この人かなりテンパってるよなぁと思い込んでいた。本当にどんなに寒い日でもアイスコーヒーだったんだもの。
舞台の中の平は毎度コーヒーこぼしてアチッとなってたので、ホットコーヒー派だね。それにしても岡田さん、いいお声。
ラストでこれからは……を語る平が慈愛に満ちていて、世の忙し過ぎるお父さんも見て! 感じて! と思った。

聖子さんは「MONDAYS」という作品のキーパーソン。演じるのは大空ゆうひさん。リピート観劇したら一番に注目したい人物だ。あの時、この時、聖子さんの一挙手一投足はどうだったのだろうと。
大空さんが冷静、実はチャーミングな聖子さんを好演していた。
因みに聖子さんのような事務の方に整理収納のスキルがあると会社は助かる。けれど本人のスキルがあっても共有出来ていないとオフィス内は片付かない。一人がわかっていてもダメだし、本当に使いやすいものになっておらずその人以外は在り処がわからない、なんてことになるから。だからみんなー、聖子さんの話を聞いて!

永久部長を演じるのは梶原善さん。部長にタイムループに関する話が届くまではかなりの時間を要する。観客はすっかりその仕組みを分かりながら観ているから、部長に内緒でコトが進んでいく感じ、繰り返していく日常が少しずつ早送りみたいにスピードを増していく時に、部長だけ仲間に入れなくて可愛いそうと思った人はいるだろうか。
でも現実も案外そんなもんだ。ちょっと面倒くさい存在がいるから、それ以外が団結出来たり、羽ばたけたりするもので。
梶原善さんの部長は、愛すべき鈍感力を身につけた人物だった。栄養ドリンクをすぐ分けてくれるのなんて、なんか可愛いじゃあないか! いつもコンビニ袋もらっちゃって全然エコじゃないけど、いつもその小さい空き袋を聖子さんに渡して「これ、ゴミ袋とかに使って!」なんて言ってそう。

楽しい系の作品って、リピートしている方が多いとどうしても慣れで笑いが少なくなるよね。でも笑わせるためにちょっと違うこととかするのはきっと違うだろうから、彼らはやっぱり繰り返すんだ。なんかシビアだけどプロだよなと思う。
月刊誌を作っていた時、毎年のように同じ特集を組むことに慣れてしまって変えよう、変えなければ……と考えていた。でも、その月にその特集をするのは、慣れではなく新しい読者にとってこのタイミングで必要な情報だから……みたいに考え直して(諭されてだったかな)、依頼、繰り返すことの意味もしっかり意識するようになった経験がある。

役者業をやっている人なら、このタイムループする『MONDAYS』から感じることがきっと多いだろうと演出のウォーリーさんは仰っていたし、同時に誰にとっても繰り返すことの意味を考えさせられるし、考えたくなる、人生を投影できるとも言われていた。(パンフレット内クリエイターズトークより)
その通りだった。
「同じことの繰り返しのような日々」って、愛おしいんだな。でもそれが憎らしいと思う日々もまた繰り返すんだよなぁ。で、今日って何曜日だったっけ?

パンフレット編集・取材・文 
担当させていただきました。

サイズ:B5サイズ(全72ページ)
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