とりなし隊長のメモパッド PR

相談は深刻にならずに

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言い方ひとつで、考え方ひとつで物事は結構うまくいく。これはとりなし隊長がちゃちゃっとメモしたような気楽な記録と提案です。

今回のとりなし対象は……
<お年頃の私の母親>

「困ってるのよー」実家の母からの電話の声はさほど深刻さを帯びていない。
実際、深刻ではなかった。

「困ってるのよー、電話の音が全然鳴らなくて」
毎度お馴染みの、こちらは何もしていないのにハード面に不具合がある(に違いない)という相談だった。
遠隔でもおおよそのことは察しがついた。つまり、スマートフォンのマナーモードを解除していないのだろう。または着信音が極端に小さく聞こえづらいのだろう。

母がスマートフォンを携帯し始めてから結構な年数が経過しているし、
もちろん、マナーモードのオン・オフは以前教えている。
でもいろいろ経験した私は、母の年齢を考えればこうした一つひとつが簡単じゃない! ということもわかる。

「電話の上の方、音が聞こえる側から指でシュッとやって画面を見てみて!」
いろいろ擬音も使ってみるが、途中で操作を思い出すということはなく、うんともすんともという感じだ。
「使い方をメモしていたものが、布のケースに入ってない?」
マナーモードの解除の仕方はおそらくその自筆のマニュアルに書いてあるはずだが、
「それはないわねー」と呑気っぽく断言する。

対面していれば秒で教えられるのだが、遠隔では難しい。
まして、今、電話しているスマートフォンで会話をしながら操作をする、ということ自体がピンと来ていないのだ。

「とりあえず、ちょこちょこスマートフォンを確認して、着信がないか、LINEが入っていないか確認する……それで対応しておいて。どうしても急ぎで連絡取らなきゃいけないこと、そんなにないでしょ?」
と私が言うと、
「ない」
とこれまた呑気に母が答えた。

会った時に操作法を教えるということで話はまとまった。

「でもね……、〇〇先生から何度も連絡したのよって言われるのよ。〇〇さんからも、LINEしたの見てくれた? って連絡が来ちゃうのよ」とまとまったはずの話を再び蒸し返す。

「だーかーらー、、、。」と呆れた口調になりそうになるところで、すぐに気を取り直した。
「連絡したのよって言われたら、“ごめんなさ~い、なんだか忙しくしてて電話取れなかったんですよー。すぐに出ないんじゃなんのための携帯電話なのかって感じよね、ハハハハハ” ってバカっぽく言えばいいじゃない」
バカっぽくというところにムッとするかもしれないかと慌てて、
いろいろお互い様なんだからって思っていればいいわよ。厚かましくしても誰も文句言わないお年頃よ!」

実際、互いの好き勝手なタイミングで電話をかけているだけのようなので、そんな呑気なリアクションを提案してみると、
「それはそうなんだけどねー」となかなか素直にウンとは言わない。
「そこはもう、女優になりなさいな」
そういうと笑って話は小さくまとまった。

と、思ったのも束の間。
「あとね、CDが聴けなくなっちゃったのよ。この間買い換えたばかりでもう電気屋さんに、これ先はこの型のものは入りませんよって言われてるし……」
と再びハード面の不具合を主張する。

大きくため息をつきながら、壊れてはいないだろうことを告げた。
「とっても単純な作りですからね、そう簡単には壊れませんよ。たぶん大丈夫なんだけどなぁ」

踊りのお稽古に使うCDラジカセと、持ち歩き用のテープレコーダーの不具合を訴えている。操作の問題だと思うから、対面していればきっと秒で教えられるのだが、遠隔は難しい。
まして、電気屋さんには何の非もない。

「あのね、現物見てないから状況がわからないけど、とりあえずすぐにそれが使えないと困るわけ?」
「困る。練習できないと。1階ではお父さんがテレビずっと見てるから、私は2階で練習しなくちゃいけないから」
母は電気屋さんに続いて、父に濡れ衣を着せる。

「わかった、それはすぐに練習できないと困るね」

そんなわけで近い日程で私の家に母がお困りごとを持ってきて、対面で解決することにした。
「じゃあ、私、今日行くわよ」と言ったが、その日は晴天で日中、かなり気温があがる予定だった。
全力でそれを止めて、父に車を出してもらうことを提案した。
「でも夕方になっちゃうから」と何に対してかわからない遠慮をする母に
「こんな炎天下に歩いて来るなんて、実母への虐待になっちゃうわよ。でも私もそれだけのためにそっちに行くのはちょっと厳しいし……」

本音全開でリアクションして、結果、夕方、父と共に車でわが家に来てもらうことにした。
荒れた庭を見せるのは恥ずかしいなと思ったが、代わりに近所のあんみつをお土産に用意してあげられると都合良く解釈して、
「何もおもてなしはできないわよ」の断わりと共に、夕方、父母を出迎えた。

もちろん、スマートフォンの操作は、短時間の講習で終了したし、
CDラジカセは本当に単純な操作の誤解に過ぎなかった。
新曲を練習するんだと持参したCDを、テープに録音して、カセットテープレコーダーでもちゃんと再生できるよう実演したら、
母は私に驚きのまなざしを向けてきた。
「魔法みたいでしょ!! でも私、魔法使いじゃないのよ~♪」とふざけて言うと、
母は「来てよかった」とポツリと言った。

そういえば、お土産に持たせたあんみつの感想を聞いていなかったな。
今日あたり電話をしてみよう。着信音はしっかり聞こえるようマナーモードは解除したからすぐに出てくれるだろう。

※写真は母が持参して物々交換したおやつと、古い携帯電話の説明書と付属品。これはわが家で処分することに