拝啓、ステージの神様。 PR

ビヨビヨのゴムが見える『パラサイト』

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ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略

2019年、世界を席巻した映画「パラサイト 半地下の家族」。
アジア初の米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞したことでも話題を呼んだ。
映画を観た時、何を感じたかをどこにも記しておかなかったので記憶が少しぼんやりしているが、「よくこの内容がネタバレしてなかったな、これだけヒットしているのに……」
そんな風に思ったことは憶えている。

私自身はネタバレを避ける傾向にあるけれど、知る気がなくても漏れてきてしまって、それを見聞きしていてもおかしくなかったんじゃないかと驚いたのだ。
なんとなく作品を知った人たちが共犯関係にあるような不思議な気持ちにもなった。

あれから4年の月日が流れ、『パラサイト』が舞台となって上演された。
しかも日本で。そして古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ、キムラ緑子など魅力的なキャストが揃っている。
なんとかギリギリチケットを確保して新しい劇場THEATER MILANO-Zaに足を運んだ。

私のチケットは3階LB列。劇場を直方体で見たとするとステージは下辺の横側で、LB列は上辺の縦側だ。(公式サイト座席表参照)
しかも3階席はだいぶ上、しかも椅子はハイチェアーで手すりから上半身がニュッと出る高さだ。高所恐怖症の方は恐らく観劇どころではなないと思う。
足がぶらぶらしないようフットレストの貸し出しがされている。それを使ってもやや不安な気がするのは、初めての劇場であることと、一人だったこと、LB列が1列だけで縦に並ぶ座席だったことが影響しているだろう。そう、ジェットコースターの隣の座席がないバージョンという感じだ。
なかなか作品の本題に入れないが、結論から言えばこの席だったことが、舞台『パラサイト』の観劇に不思議な力を加えていた。

作品は、富裕層、貧困層の格差をくっきりとはっきりと描いている。
設定は韓国の半地下から日本の関西の堤防下のトタン屋根の集落になっている。
台本・演出は鄭義信。
金田家4人(古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ)は貧しい暮らしをしている。
荒んでいるけれど、家族は貧乏から抜け出したいと思っているけれど、
家族は家族という存在が好きだし、絶対的であるということがわかる。
ストーリーテラーを務める純平(宮沢氷魚)の、どこかほんわかした口調がそれを象徴していた。

3階席から金田家やトタン屋根の集落を観ている図は、まるで見下ろしているような感覚になる。
「大変だよな、でも彼らは彼らの幸せがあるよな」
なんだか自分がヤバイ奴になってしまったような恐ろしい感情だ。

純平らが策を練り、パラサイト(寄生)するのが、永井家(山内圭哉、真木よう子、恒松祐里)だ。彼らは有名建築家が手がけた丘の上の豪邸に暮らす。
趣味の悪いテロテロのパジャマを着て、家族はベタベタとスキンシップをはかっているが、その実もテロテロに見える。
これもこれで見下ろしている感覚になる。そういう暮らしに憧れたことなどない……みたいなアレルギー反応に似ているかもしれない。
永井家には、玉子(キムラ緑子)というお手伝いさんがいて、彼女にも安田家という家族の存在があるのだが……。

ストーリーは映画「パラサイト 半地下の家族」と設定は違えど原作に忠実なので、
間違い探しのようなことをせずに観られた。
シーンの切り替わりも廻り舞台を使った美術がとてもスムーズで、集中が途切れない。
3階席なのにこんなに途切れないってすごいな……とやたら3階席なのにと思ってしまったのは、1階席正面で観る人たちを富裕層のような目で観ているドロっとした感情に近かったかもしれない。もうすっかり『パラサイト』の世界観に堕ちていた。

映画の中でもとにかく「いやぁー」な気分になるなと眉間にシワを寄せまくったシーンがあったが、今作でもそのシーンは顕在だった。
張り詰めていたものがプチンと切れると、それは糸ではなくてビヨビヨのゴムで、それが切れるとビヨビヨでデロデロになる感じが眉間のシワをより深くさせるのだ。

カーテンコールに話を飛ばそう。
物語とリンクした、とてもいいカーテンコールだった。少しホッとするような、なにも解決などしていないではないかと突きつけられるような気持ちにもなって、ビヨビヨのゴムが隅に転がっているように見える。
見下ろしたり、見上げたり、荒んだり、忙しかった私(たち)のところへ拍手が来た。
古田新太さんらが舞台のカーテンコールでよくやる気がするのだが、キャストの皆さんが客席に向かって拍手をするのだ。
「この舞台を観たあなたたちにも拍手!」みたいなやつだ。
ビヨビヨのゴムは視界から消え、いい舞台を観た後の達成感のようなものに包まれながら、長い長い階段を徒歩で降りた。
(THEATER MILANO-Zaは東急歌舞伎町タワーにある約900席の劇場。3階席はこのタワーの8階にあたり、階段で降りるとなかなかな段数がある)
降り切った時のなんだかホッとしたような感情も憶えておこう。

プログラムは2,000円。キャストページのデザインが絶妙に気持ち悪くてパラサイトの世界観とリンクしてる!
拝啓、ステージの神様。
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