私のアンフォゲ飯 PR

若い2人で食べた初めてのビフテキ

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、埼玉県比企郡ときがわ町で農園事業を営む大塚洋一郎さん。「食」と「農」に携わる大塚さんの忘れられない味の記憶を掘り起こしました。

-- 東京・千代田区で全国の市町村の美味しいものを発信し、交流の場を作ってきた大塚さん、忘れられない味といえば何を思い出されますか?
大塚 僕は今では毎朝、味噌汁づくりを担当していますが、結婚当初は妻任せで、料理はまったく経験がありませんでした。
忘れられない味というと、2人で初めて食べたものの記憶になるかなぁ。
妻のるり子とは北海道大学で知り合い、結婚を決意して二人で東京に就職しました。
学生時代、僕が22歳、るり子が20歳の頃、修士に受かったお祝いで「今日は二人でビフテキを食べよう」ということになったんです。
この頃、肉といえば豚肉か鶏肉で、2人とも牛肉はほとんど食べたことがありませんでした。

-- はじめてのビフテキは2人で……もう、素敵ですね!
大塚 近所の肉屋さんに行って、「おじさん、この牛肉をこれだけ切ってください」と言って、2人でその様子をじーっと固唾を飲んで見ていましたね。値段は高かったし、初めてだったのでドキドキでした。
家に帰って、よし、焼こう! ということになり、大きな中華鍋でガンガン焼いたんです(笑)。ガンガン焼いたから、当然すごく硬くなりますよね。でも「これがビフテキだ。これが牛肉だ!!」と言いながら食べました。
しかも2枚買ったけれど、全部焼いたらもったいないと思って、1枚は残して、1枚だけ焼いて2人で食べたというのを今、思い出しました。

-- 今のようにサイトでレシピを調べられる時代ではありませんよね。作り方を調べたり、何か知識を入れてから作ったのですか?
大塚 もちろんインターネットもないし、ステーキの焼き方なんて誰に聞いたらいいかわからないから、ただガンガン焼いたんだよね。

-- 味付けは、塩・こしょうですか?
大塚 塩・こしょうです。硬かったことは覚えてる(笑)。

-- 下ごしらえして、肉を柔らかくするとかいうことは知らなかったのですよね。
大塚 知らない、知らない。当時はナイフ・フォークを使って食べたりもしなかったと思うから、焼いたステーキを庖丁で切って、箸で食べたのだと思いますよ。肉は硬かったけど「おいしいね」と言いながら食べました。それが初めてのステーキ、2人で食べた忘れられない記憶に残る食べ物ですね。

-- 忘れられない味をご夫婦で共有出来ているって素敵ですよね。
大塚 そういえば、仕事で3カ月訪れていたドイツから戻ってきた時にも、2人で初めて口にしたものがあるなぁ。お土産に買って帰ったアウスレーゼワインです。ワインの種類も何も知らなかったので、「これが白ワインだぞ!」と二人で美味しい、おいしいとちびちび飲みました。もったいなぶって少しずつ何回にも分けて飲んでいたものだから、最後は酸っぱくなってしまったりしたけど、美味しかったなぁ。

-- はじめての〇〇、みたいな体験を奥さまとたくさん味わってこられたのですね。
大塚 就職して2年目には結婚したので、はじめてだらけだったと思います。

-- 冒頭で、大塚さんが朝の味噌汁づくり担当とうかがいましたが、その味噌汁の味噌は、もちろん……。
大塚 手前味噌ですよ。うちの畑で収穫した大豆を使って味噌を作っています。僕がときがわ町で大豆を作り始めたのは2020年からです。それまで全国の生産者さんがこだわって作った野菜や果物、魚や加工品を紹介し、都会と地方の交流をお手伝いしていましたが、だんだん自分で作りたくなったんですよね。2022年にはときがわ町に移住し、今では4500㎡の畑で、大豆と小麦、小豆を栽培しています。

大塚農園の大豆畑

-- さきほど畑を拝見しましたが、区画の説明をしてくださる時の大塚さんが、とにかくいいお顔をされていました。大豆の葉ものびのびと、青々と茂っていて、美味しい大豆が収穫できるんだろうなと。
大塚 
移住した年には集中豪雨で畑が水に浸かり、大豆の芽が流れてしまう被害もありましたが、蒔き直してその年は大豊作になりました。自然相手ですから、大変ですけど収穫の喜びには代えられません。

-- 小麦を栽培されている方とこれまでお会いする機会がなかったので、新鮮です。
大塚 
小麦、いいですよー。うちで作った小麦を使った、ふすま入りクッキーは評判がいいですし、スコーンづくりのワークショップも人気です。

栽培中の小豆の花

-- はじめての手づくり味噌、はじめての小麦の香りを楽しむスコーンづくりなど、はじめての機会がたくさん提供できそうですね。
大塚 
これからは不特定多数の方に向けて発信すること以上に、今、自分の周りにいる人たちとのつながりを大切にしながら「食」と「農」の喜びを伝えていきたいと思っています。

-- るり子さんとの仲睦まじいエピソードと初めてのステーキのお話にほっこりしました。笑顔あふれるお話、ありがとうございました。

 

イラスト/Miho Nagai

大塚洋一郎(Youichiro Ootsuka)さん

1954年東京生まれ。1979年科学技術庁に入庁し、宇宙開発利用課長など歴任。2009年、経済産業省大臣官房審議官を早期退職し、NPO法人農商工連携サポートセンターを設立。東日本大震災農業支援、アンテナショップ「ちよだいちば」の運営に携わる。
2022年、埼玉県比企郡ときがわ町に移住し、大塚農園事業を開始。農薬化学肥料不使用の小麦と大豆の栽培を手がける。

大塚さんのInstagram






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