誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、シアター代官山で上演中のミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』です。
ご一緒したのは、整理収納アドバイザーのおおさくゆかさん、みのわ香波さんです。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
1961年(昭和36年)、高校の同級生として出会った菜々子(樋口麻美)と百合絵(吉沢梨絵)。性格が正反対の2人は、そこから長い友情関係を築いていく。
女性としての生き方に直面し、ままならないことも多く抱える2人は旅を共にすることで絆を深め、互いをかけがえのない存在として大切にしながら妻となり、母となり、年齢を重ねていく。
昭和の価値観を妻に押し付ける菜々子の夫・眞司(東山光明)と母を応援したい娘の久美子(小多桜子)。
一方、百合絵の娘の千明(谷口あかり)は、母の愛情を求め寂しい思いを抱く日々。妻の生き方を応援する百合絵の夫・勝章と父にそっくりの息子・史郎(吉田純也)。
二人とその家族の人生の旅の行方は……。
ぶっ刺さっちゃった
17年ぶりの観劇
みのわ 最高でした。
おおさく 最高でした!
みのわ 私、ミュージカルってあまり観たことがなくて、多分今回が人生3度目。正直あまり興味がなかったんですけど、ストーリーも曲も一から作ったオリジナル作品と聞いて、こんなに一流なものをこの小さな箱でやるの? と驚いてしまいました。なんという贅沢なのだろうと!!
栗原 クリエイターの皆さんは、大きな箱で上演される作品も数多く手がけている方ばかりですし、本当にスペシャルだと思います。
おおさく 劇団四季で活躍されたお二人が主役と聞いて、さすがだなぁと感動しました。歌も皆さん素晴らしかったけれど、踊る指先までめっちゃきれいでした。
栗原 涙しながらでも歌はブレないのもさすがですよね。
みのわ 美空ひばりのように。
栗原 お、いいね、昭和出てきたね。おおさくさんは、観劇自体がとっても久しぶりなんだよね?
おおさく 17年ぶりです。
栗原 劇場が暗くなって、最初の音が鳴った瞬間に隣の席で「あ、そうだ、これだ!」みたいにおおさくさんの体が反応していた感じがしましたよ。気になったシーンはどこでしたか?
おおさく 菜々子と百合絵の二人が旅に出るぞ!と盛り上がっているタイミングに子どもたちが寂しそうだったシーン。百合絵の娘の千明が「私が家のことをやってる」というシーンは「ヤバイヤバイ、今だ今、うちのことだ……」ってなっちゃいました。ほかの方とは違うところでぶっ刺さっちゃってたかもしれません。
栗原 みんな刺さるところがそれぞれありそう。
おおさく 娘の気持ちもわかるし、親の気持ちにも共感するし。だから動揺しちゃって、その辺からかなり入り込みました。千明の気持ちはすごくわかるし、でも自分の性格的には菜々子の方かなと思ったり。
みのわ 子育て経験のある人に刺さるっていうのがすごく納得だし、自分も子どもだった経験があるから、子ども目線の共感もありますよね。総じて昭和・平成・令和の女性の生き方の変遷がすごいじゃないですか。これって整理収納アドバイザーに対する変遷もそうですよね。「家事を人に任せるなんて!」と言われた時代から今や、「え!? 頼めばいいじゃないですか!!」というところまで来ているから、この変化に自分たちも慣れなきゃって思いながらやってきたところはありますね。
旅もまた同じだな、わかるなぁ。私の年代はそろそろ子離れして「友人同士で旅行にでも行こうか!」なんて話が出始めている頃なんです。それも「行こういこう!」とすぐ賛同できる人と、「家のことが……」ってまだ言ってる人もいる。
結局それって生まれ育った時代や、親のスタンスとかにすごく影響を受けているんだろうなと思います。だからこそ、菜々子にとっての百合絵、百合絵にとっての菜々子のような存在がいるのといないのとではだいぶ人生が変わりますよね。
時代背景を知ることは
作品や相手を理解する一歩
栗原 1961年に二人は高校生だったから、生まれは1940年代。それを考えたら、子どもを置いて旅行に行くなんて、社会の概念として無かった世代なのだろうと思う。
みのわ 団塊の世代ですよね。
栗原 父親たちもモーレツに働いていた時代だから、旅行自体が特別中の特別だったはず。
みのわ 普通に土曜も働いて、日曜に接待ゴルフに行って、また月曜から働くという。
栗原 だから旅とかじゃなくてステレオをステータスとして持つ……みたいな物欲に走る世代だったのもそう考えると納得がいくかも。
みのわ お父さんは外に出づっぱり。朝早く出かけて終電近くに帰ってくるみたいな生活を送っている人ばかりだから、家事を手伝ってもらうなんてことはまず無理だっていう時代。妻や母はそれをどうやって甘んじて受け入れながら自分のやりたいことへの気持ちの折り合いをつけるか。
栗原 菜々子が夫を責め切らなかったのは、夫もそれが普通と思って育ってきたという背景があるからだろうね。初め、あのシーンだけ見たら、女友達の恋愛の相談に乗ってたらそのうち「でも彼、そんなに悪い人じゃないの」って庇う女子あるあるなのかって思っちゃう。そういう女子、いたよね。
みのわ いるいるいる!
おおさく いますいます!
栗原 一瞬、それを思い出して「もう~~っ」と思ったりしたけれど、時代背景を考えるとそうだったかーみたいな気持ちになります。
みのわ 世代を知るってお片づけのサポートをする上でもすごく大事ですよね。効率とか手順だけ伝えるのではなく、突破口としてその背景に何があるのかを知っていくと寄り添い方が違ってきます。
最後に絵葉書を送る場面。ずーっと使っていない何十枚もの絵葉書は作品の中ではかけがえのないツールになっていくわけで、そう思うと自分の持ち物を仕分けるのは難しいよねって改めて思います。
おおさく たしかに、今「いる・いらない」の話じゃない。あの時の絵葉書だからいいんですから。
※この後、パンフレットの表紙をめくったはじまりのページにある絵葉書の写真についてしばし説明タイム
おおさく ホントだ、さっき聞いた台詞もこの葉書に書いてありますね……。
子育てをする女性は期限ある中で
自分で結論をださなければ
栗原 ミュージカルの曲のタイトルに「女の人生<更年期>」というワードがあるなんて驚きませんか? 子育てシーンも経験された方々にはリアルに写ったんじゃないかと思います。
みのわ たしかに、あっという間に過ぎていく子育て期には、仕事に重きを置くと子どもの成長を自分の目で見れないという問題などがありました。今、どちらが自分にとって大事なんだろうと考えた結果には、自分で選んだから後悔はありません。周りになんとなく道をつけられてたとしたら、後で悔やむことがあったかもしれないと思います。あの頃の自分の選択を振り返ることが出来ましたね。子育てをする女性は決められた期限の中で悩み、自分で結論を出していかなくちゃいけないんですよね。
おおさく 今、まさに悩んでます。私はゴール設定して逆算することが出来てないですね。流れに乗って決めていくタイプなのかもしれません。
みのわ 私は自分に落とし込めないと前に進めないタイプなので、自分で決めたんだということを記憶している段階で、後悔はしていないと言えるのかなって。
栗原 決断って本当は途中で変えてもいいはずなのに、女性の決断は「君がやりたくてそう決めたんだよね」と言われがち。だからなかなか決断できないし、焦ったり、二の足踏んだり、人と比較しちゃったりして、迷い道クネクネ~なんだよね。あ、昭和が出ちゃった。
※以下、しばし栗原の子ども時代に感じた、働く母への思いの記憶をつらつら披露。
私の母と
母たちが生きた時代
栗原 私の母は、とにかく早く働きたかった、このままでは社会に取り残されちゃうと思っていたらしいです。なにかの時にふと「子どもの教育を熱心にするとかは一切しない点でダメな母親だったよね」と言われて「私は働く母が当たり前だと思っていたし、誇らしかったよ!」と伝えたことがあります。
おおさく うちの父も菜々子の夫のように、古いタイプの考えの人でした。母がパートを始めたのは遅かったんですけど、働き始めたら喧嘩が増えたのが子どもゴコロに嫌だった。でも、母が働いていることは、子どもとして嫌ではなかったですね。
みのわ うちはがっつり専業主婦の親だったので、洋服もなにもかも全て手作りでした。
※以下、しばしみのわさんのお母様の手しごとと娘の葛藤のお話に耳を傾けました。
母は手作りが当たり前だったから、当然私の子育てもそのつもりで、買ってきた子ども服を見て「この服作ったの? え、簡単に作れるのに……?」みたいに干渉されたこともありました。男の子が生まれない問題を親戚で話題にされることもあった時代でしたね。
菜々子と百合絵の
ファシリテートがすばらしい
おおさく めっちゃ入り込んで、考えながら観ちゃったから、この話を知った上で普通にもう一回ミュージカルとして観たいくらいです! 例えば、下手で演じている二人がいるのに、カーテンの向こうのお父さんの背中が気になってそっちばかり見てしまったシーンとかがあったんです。
栗原 どこにフォーカスして観るか、それが自由なのが舞台の面白さですよね。私もあの背中、つい見てしまった。
みのわ 歌詞がかぶっているところもありましたよね。風切り羽根の曲の時?
栗原 あ、それはですね、パンフレットに歌詞が載っております。歌い分けられていた部分もしっかりわかりやすく書かれておりますので、ご参照ください(笑)。その他にも気になったシーン出してみましょう。
みのわ アドバイザーとしてとても参考になったのは、菜々子と百合絵、二人の寄り添い方です。直接なんだかんだと慰めるのではなくて、一緒に菜の花を見に行く、ラテンクラブに連れて行くなどすばらしいファシリテートだなぁとしみじみ思いました。
それにしても舞台を観る度に思いますけれど、演出家の頭の中ってどうなっているんですか!神業。
栗原 アフタートークでもお話が出ましたけど、ステージング(振付)の力ももの凄いですよね。
みのわ 椅子6脚で全てを表現して。
栗原 ロンドンへ行った場面は、石畳を行くバスが見えたよね。
みのわ 二階建てだっていうのも動きでわかった。
おおさく 衣裳も上着か小物かだけでしたよね。それでわかっちゃうからすごいですよね。みのわ 旅行に行くために計画的にコトを進めるあのシーン。あの仕組みから始めるところ大事ですよね。
栗原 笑いも起きてました。皆、想像がつくんでしょうね。アドバイザーは特にあの計画性、仕組みづくりに反応しそう(笑)。
おおさく しちゃいますね。
みのわ すごくリアルで良かったです。後々のトラブルを避けるためには欠かせないところだし、何かを成し得るための土台作りは必要ですから!
私にもいます
性格は正反対の大切な友
みのわ 観劇して、親友のことを思いましたよ。
おおさく 顔が出てきました。
みのわ 顔が出てくると涙腺もゆるむよね。
おおさく そうなんです。
栗原 お二人ともそのご友人とはコンスタントに会う関係?
みのわ はい。高校からの大事な大事な友だちなので。
おおさく 小学5年生からの親友は演劇部で一緒で、高校からバラバラになってしまったんですけど、今は割と近い距離に住んでいます。そこまで頻繁に会えてはいないですけど、SNSで反応してくれたりしています。
みのわ 友人とは性格が正反対です。私がどちらかというとのんびりな方で、友人がしっかり者。初めてディスコに行ったのも、初めて新宿に行ったのも、初めてディズニーランドに行ったのも彼女が誘ってくれて実現したんです。
栗原 えーっ!! 『You Know Me~みのわ香波版~』じゃないですか!
みのわ 自分にないものを持っている人に惹かれますよね。
おおさく 私と友人は割と似た者同士かも。同じ誕生日で血液型も一緒なんですよ。でも性格は……、正反対と言えば正反対かも。どちらもあまり活動的ではないけど、役割は決まっているかな。私がツッコミ担当ですね。永遠におしゃべりしていられる間柄です。
栗原 同じ話を何回でも何万回でも出来るっていうのもあるよね。
みのわ 何もしゃべっていなくても全然問題ない関係。娘にもそういう友だちがいて、ありがたいなと思います。
おおさく でも実は今日、舞台を観て少し怖くなりました。絶対にどちらかが先に……なんだよなぁって思っちゃって。どっちにしろ嫌だ!
みのわ どっちにしろ嫌だよねー。
栗原 お二人ともお友だちに、「こんな舞台を観て、あなたを思い出したよ」とぜひお伝えください!
アフタートークも付いていた日で、その後の私たちのアフタートークもかなり盛り上がりましたね。公演パンフレットもご購入ありがとうございました。ぜひじっくり読んでください!
2024年11月19日(火)~11月24日(日)
シアター代官山
脚本・作詞/高橋亜子
作曲・編曲・音楽監督/福井小百合
演出/横山清崇
出演/樋口麻美、吉沢梨絵、谷口あかり、小多桜子、吉田純也、東山光明
※公演パンフレットの編集を担当させていただきました。
公演パンフレット(税込1,500円)
A5サイズ カラー50P
歌詞掲載(一部)、インタビュー、キャスト紹介、稽古写真、クリエイタートークほか