三階席から歌舞伎・愛 PR

禿山祭九月大歌舞伎_吉右衛門さんの影を求めて

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

今月は「禿山祭九月大歌舞伎」ということで、中村吉右衛門さんにゆかりのある演目で構成されています。二世吉右衛門が亡くならりてから早いもので2年が経過しました。

昼の部最初の演目は、「一、祇園祭礼信仰記 金閣寺(ぎおんさいれいしんこうき)」です。
二代目が吉右衛門を襲名した時には、此下東吉役を演じたそうです。その後、この作品の主役となる松永大膳や正清も数多く演じられたといいます。

主役となる松永大膳久秀は、朝倉義景と組んで将軍・足利義輝を弑逆した大悪党。将軍の生母と絵師の狩野之介直信の妻・雪姫を幽閉して金閣寺に立て籠もっています。
松永大膳は、雪姫に横恋慕し、夫の代わりに金閣の天井に龍の絵を書くか自分の情けを受けるか迫ります。
天下を狙う大物感も存在しつつ、人の妻に手を出そうとするいやらしい感じも出さなければいけない役どころ。今回は中村歌六さんが演じました。
亡き二世だったらどんな感じだったのかなと、しみじみ二代目がもうこの世にいないことに寂しさを感じました。

松永大膳と雪姫の絡みが増える中盤では、雪姫の父親が殺害されたときに盗まれた不思議な力を持つ倶利伽羅丸という刀を松永大膳が持っていることに気づき、奪って切りかかります。しかし押さえつけられ縄で木に縛り付けられてしまいます。
そこから5分以上はあったでしょうか、親を殺され、夫はもうすぐ斬首されるので、どうしょうもない深い悲しみに打ちひしがれる、雪姫の見せ場です。本日は中村児太郎さんが熱演でした。雪姫以外では、此下東吉を中村勘九郎さんが演じられましたが、キリッとした正義感あふれる姿でいい男ぶりを見せていたのが印象的でもありました。
昼の部つづいては、私の好きな松羽目もの「二、土蜘(つちぐも)」です。小鼓は田中傳左衛門さんです。音の響きも掛け声もレベルが高く、とても素晴らしかったです。
土蜘の精を演じるのは二世の甥の松本幸四郎さんです。比叡山の学僧に化けた智躊(ちちゅう 蜘から読み方決めてます)が花道からなんの前触れもなく、いつの間にか近づいてくる不気味な登場の仕方も、中村又五郎さん演じる源頼光との会話も低い声で不気味な感じがよく出てました。
間狂言の直前、正体を疑われ源頼光から一太刀受けた時、二畳台でする見栄も決まってました。後半では、土蜘蛛の精となり、源頼光らと立ち廻りとなりますが荒々しく暴れまくり、最後には名刀膝丸の前に敗れます。立ち廻りの最中は、見栄が何回も出ますが、幸四郎さんの見栄、決まりまくってかっこよかったです。

夜の部の「二、連獅子」についても少しだけ。
尾上菊之助さんとご子息の丑之助さんです。そうです。丑之助さんは、二世中村吉右衛門さんのお孫さんです。目付きが、二世のコピーではないかと思う位そっくりです。
まだ小さくて体力的に難しいのではと心配しましたが頑張っていました。
おじいさんのような名優になっていただきたいと思い、ただただガンバレの気持ちです。
菊之助さんの親獅子にももう少し力強さを感じられたらいいなと思ったのも本音です。古典から新歌舞伎まで演目的にはバラエティに富んだ秀山祭を一日楽しみました。
最後に、禿山祭を見ながら改めて感じたことを。
勝手ですが、やはり二世中村吉右衛門さんの直系の後継者が不在なのは残念に思いました。もし幼少の頃から稽古をつけた役者がいたらどうだっただろうなどと、ふと思ってしまうのです。そんなことを言われても、そればっかりは……とあちらで苦笑いされてしまうでしょうか。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年「禿山祭九月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

 

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。