三階席から歌舞伎・愛 PR

七月大歌舞伎_公演中止なのでDVDブック鑑賞

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

7月末に鑑賞予定だった七月大歌舞伎が舞台関係者複数名に新型コロナウイルス感染症「陽性」が出たため、公演中止となりました。
今回は、第一部が市川猿之助さん、第二部が市川海老蔵さん、第三部が尾上菊之助さんがメインとなり、とっても魅力的な公演内容でした。何とも言えない喪失感を感じます。

「コロナウィルスのやつめ! やっつける方法なんかないかなぁ。」などと書斎の机で呆然としながら、本棚の一角になにげなく目をやると、そこには小学館発行のDVDブック『シリーズ歌舞伎 市川團十郎・市川海老蔵 パリオペラ座公演 勧進帳・紅葉狩』がありました。
私が、歌舞伎を観はじめたころ、書店で見つけ、衝動買いしたもので、何十回と見たものの最近はずいぶんとご無沙汰になっている代物でした。

シネマ歌舞伎を観にいくことも考えましたが、現在上映していた作品はなんとなく気が乗らなかったこともあり、何年かぶりに、DVDを見ることにしました。

今回の「三階席から歌舞伎・愛」は、コロナによる公演中止を受けて、「リビングのテレビの前から歌舞伎・愛」に変更させていただきます。

この公演は、2007年3月に、パリ オペラ座で行われました。
第十二代市川團十郎 第十一代市川海老蔵 襲名披露公演です。
参加メンバーは、「亀治郎」時代の市川猿之助さん、その御父上の市川段四郎さん(三代目市川猿之助さんの弟さんです)、市川斎入さん(当時右之助)、河原崎権十郎さん、片岡市蔵さん、中村梅枝さん等です。
市川段四郎さん、市川亀治郎さん親子は、初代猿之助さんが、九代目市川團十郎さんから一度は破門されながらも芸の研鑽に励み、一門の番頭格までのし上がったなんてお話があるくらい、本来は市川宗家とのつながりが深いようです。

DVDの構成は、一、勧進帳(團十郎さんの弁慶) 二、口上 三、紅葉狩

まず「勧進帳」ですが、海老蔵さんが富樫を演じます。最初に、富樫が名乗りをあげます。これがまたいい声なんです。海老蔵さんは、顔もイケメンですが、何といっても「声」がいいです。太く大きく、会場全体に響き渡ってとてもいい。花道から弁慶一行が登場し、勧進帳の読み上げ~山伏問答と名場面が続きます。
親子の息の合った掛け合いがまた素晴らしいです。弁慶の答えを聞いて、義経一行でないと富樫は納得し、安宅の関を通行する許可を与えます。その後の、弁慶が酒をふるまわれ、一気飲みするシーンや、舞を踊るシーンなどは、問答の際の緊迫した感じとは異なり、とてもたのしく愉快に感じます。
最後の飛び六方も、かっこよく決まっていました。女形の役者さんが演じる源義経は、亀治郎さんでした。まだ細面で、今と違う(失礼)感じです。

続いて「口上」です。以前にニュースで見たことがある方もいらっしゃるでしょうが、なんとフランス語で行っています。市川團十郎さん、市川海老蔵さんは、さすがにメインですから流暢にお話になりましたが、ベテランの市川段四郎さん、河原崎権十郎さん、上村吉弥さんは、若干つまったりした感じがありましたがそれもご愛敬。
最後の市川亀治郎さんは、團十郎さん海老蔵さんが90秒位なのに、一人だけ120秒近く話しています。
最初は歴史的なことを説明し、「さすがインテリ」とか思いましたが、最後の方では「オペラ座の怪人」が好きだの「シャンデリアが落ちてこないか心配だ」とか受け狙いがあり、やっぱ澤瀉屋だな、なんて変なところに関心しました。

口上の最後は、市川宗家のお家芸「にらみ」です。正月に「にらみ」をみれば、一年風邪をひかないといわれています。コロナもぶっとばしてくれと思いながら鑑賞しました。直接舞台を拝見したことのない團十郎さんの「にらみ」最高です。

最後に、「紅葉狩」です。信州・戸隠山の鬼女伝説を描いた能の「紅葉狩」を素材に作られた作品で、豪華な舞踊劇です。
私は日本舞踊をやったことなどないのですが、なぜか舞踊物が大好きです。普段はあまりないですが、常磐津、竹本、長唄の三方掛けで演奏します。それぞれが交互に演奏します。
DVD作品ならではの見所としては、演奏される方、唄われる方のドアップがみられることです。

戸隠山の鬼女が、更科姫に化けて、平維茂を餌食にするため宴に誘うことから始まります。 前半は、更科姫としての舞が印象的です。あまり女形をやらない海老蔵さんが、赤姫の衣装をまとい、女形として高貴な舞踊を踊ります。(亀治郎さんは、海老蔵さんが、更科姫から鬼女への着替えの間に、酒をたくさん飲まされ、意識を失った平惟茂を起こすために出てきた山神として途中に登場します。)

後半は、荒々しい茶隈の鬼女となり、激しい立ち廻りになります。姫から鬼女に変化する際の荒々しい感じの表情の変化は、海老蔵さんの大きい眼と大きく開く口で、ものすごくダイナミックでかつオドロドロしいもので、鬼女の物語にはドンピシャです。最後は、歌舞伎名物 名刀小烏丸の威徳で木の上に鬼女は追いつめられて終わりになります。

パリ公演では、普段の歌舞伎公演では見られないカーテンコールがありました。
その時、気づきました。テレビの前にもかかわらず、大きい拍手を贈っている自分に。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「七月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。