三階席から歌舞伎・愛 PR

芸術祭十月大歌舞伎_サイコー、鬼にしか見えない!

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

今月ご紹介するのは、芸術祭十月大歌舞伎です。先月は体調不良で観劇を断念していたので2カ月ぶりの歌舞伎座です。
今回は、第一部の二演目をご紹介します。

一、「鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)」は、市川猿翁演出作。
なんと言っても私の大好きな、市川猿之助さんが化け物(今回は鬼)を演じます。
以前、ここでパリ公演での團十郎さんと海老蔵さんの「紅葉狩」を紹介しましたが

七月大歌舞伎_公演中止なのでDVDブック鑑賞歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性による、三階席からの歌舞伎レビュー。初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて語ります。七月大歌舞伎は残念ながら公演中止となってしまったので、今回はDVDブックでパリオペラ座公演を鑑賞。「リビングのテレビの前から歌舞伎・愛」...

この時の公演との違いといえば、音楽を担当する人の数が今回は圧倒的に多いということ。
踊りも激しく、エネルギッシュという印象でした。

戸隠山に紅葉狩に来た平維茂(松本幸四郎)の前で、6人の局が並んで踊ります。
その後、3人ずつ踊り、次に更科の前(市川猿之助)がソロで踊ります。

酒宴の場となり、その後も猿之助さんとプラス2名ずつで入れ替わり立ち替わり踊りが続きます。
明るく華やかな色の着物で、いかにも酒宴の場という感じで、見ていて楽しくなります。
やがて、平維茂は酔ってうとうと居眠りを始めるのですが、
ここで更科の前の正体が見え隠れするのです。
更科の前実は戸隠山の鬼女、が猿之助さんの役どころ。
猿之助さんの女形はとても美しいですが、居眠りしている姿を見て、フフフとばかり鬼の仕草が顔を出す時の動きが最高です。
鬼にしか見えません。舌なめずりして「お前を食べちゃうぞ」みたいな感じをこっそりだけどしっかり見せるのです。
私は双眼鏡で猿之助さんの動きや表情をガン見してしまいました。

居眠りしている間に、6人と更科の前は一度引っ込みます。
次に現れた時は衣装もギラギラと派手になり、完全に鬼になって出てくるのです。
鬼たちが引っ込んでいる間に、八幡神が遣わした神女(中村雀右衛門、市川笑三郎、市川笑也)が現れ、維茂に鬼の正体を告げ、退治するための御剣を授けます。

台詞もありますが、基本的には舞踊で見せるので、終始、舞踊を堪能することができます。

本性を表した鬼女たちの舞は激しくなります。
演じるのは、市川門之助さん、中村種之介さん、市川男寅さん、中村鷹之資さん、尾上左近さん、中村玉太郎さん。
毛振りもあれば、ぐるぐる回ったり、かなり激しいですし、相当体力を使うだろうなと感じますが、とにかくこれでもかこれでもか感があるので、本当に退屈しません。
若手の中に、門之助さんのようなベテランが並び、世代を超越するのもまた歌舞伎の面白さと言えるでしょう。

群舞、松羽目もの、猿之助さんが演じる化け物、私の好きな物が全部入った演目。
衣装もキラキラしていて綺麗ですし、隈取も見ることが出来ますし、歌舞伎初心者にもぴったりだと思います。
ダンス&ボーカルユニットなんかがお好きな方はハマるかも!?

二、「荒川十太夫(あらかわじゅうだゆう)」も面白く観ました。
この物語は赤穂義士外伝の内、とありますが、主役の荒川十太夫(尾上松録)は、
赤穂浪士の堀部安兵衛(市川猿之助)の切腹の際に安兵衛の首を落とす役を努めた人。

堀部安兵衛がいよいよ切腹という時に、十太夫に向かって役職を訊ねます。
十太夫は実際の身分は低かったのですが、冥途の土産にと訊ねた安兵衛をがっかりさせたくなかったため、身分を偽り答えます。
嘘をついてしまった十太夫は安兵衛亡きあとも、月命日には墓参を欠かしません。
その際に、下男を雇い、偽りの身分を装い続けるのです。七年もの間。
今回この演目を歌舞伎にしたいと自ら提案されたという松緑さんが、十太夫をばか正直な男として演じます。

嘘がばれて取り調べを受けますが、その時に安兵衛とのシーンが回想のように出てくるので、そうだったのか……とことの経緯(ストーリー)をわかりやすく観ることができます。

十太夫に目をかけていた松平隠岐守定直を演じた坂東亀蔵さんの声がいいのも印象的で、最後は温情ある沙汰で終わります。
元々講談の名作を歌舞伎にした作品なので、場面転換も少なく、じっくりと物語がわかりやすくいのも良かったですね。

ちなみに今回のイヤフォンガイドは元フジテレビアナウンサーの吉崎典子さんでした。
声に馴染みがあるせいかもしれませんが、とても聞きやすくて調子も良かったことも付け加えておきます。

次月は市川團十郎白猿襲名披露公演が予定されています。
昼の部、夜の部の二部制に戻り、客席・ロビーでの飲食も解禁。
歌舞伎を楽しむ人がまた増えることを願いつつ、引き続き三階席から観ていきたいと思います。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。