三階席から歌舞伎・愛 PR

初音ミク出演の超歌舞伎で58歳ペンライトデビュー_十二月大歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

「十二月大歌舞伎」、本日は第一部のみの観劇です。
最初は坂東巳之助さんが化け猫を演じる「一、旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)」です。猿之助四十八撰のうちの獨道中五十三次がルーツになっており、今回はその一部の上演です。話は山猫の化け物が食い殺した老婆に扮し、進行していきます。化け猫だけあって低い声で話し方もどことなく不気味な感じを漂わせます。使いを頼んだ女が夜遅くなったので寺に泊めた夜、行燈の魚油を舐めるため行燈に頭を突っ込むと影が猫になり、化け猫であることが女にバレてしまい、食い殺してしまいます。
その後、死体で遊ぶシーンが不気味で見所です。
化け猫を演じる巳之助さんもいいですが、死体役の役者さんがまたすごい。離れた位置から巳之助さんが腕を回すと死体なので頭から足先まで硬直してまっすぐのまま時計の針のようにクルクル回ったり、上に向くとブリッジをしてお腹を上に反ったまま歩き出したり、バク宙をしたり、行燈の上で三点倒立をしたり、体操選手のように柱の上に掴まり蹴上がりをしたりと大活躍です。

もちろん巳之助さんも負けておらず、柱を登って伽藍の中を走り回ったり、梁の下の横棒に掴まり回転しながら下に降りたりとアクロバティックな動きをされています。ダイナミックに動くだけでなく、人を食い殺したあと、まるで口裂け女のように口を血で真っ赤にした表情を見せる場面もありました!その後は、化け猫の正体に気づいた侍との対決になります。ここでは歌舞伎によく出てくる小道具、霊力を持った刀の前に、祟をなすと言い残し消え去ります。セリフ回しも化け猫らしく、不気味でダイナミックな動きにも巳之助さんの魅力が存分に発揮された、いい演目だったと思いました。
まったくクリスマスらしくなくてすみません(笑)。続いて、第一部のメイン、超歌舞伎「二、今昔響宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」です。「中村獅童 初音ミク宙乗り相勤め申し候」とあります。
個人的にはこれまで何となく縁のなかった超歌舞伎でした。食わず嫌いといった感じでしょうか。オーソドックスな歌舞伎と違う点といえば、芝居が始まる前に、口上があり、中村獅童さんによる超歌舞伎の説明があること。(途中から初音ミクさんも登場しました)
ペンライトの使い方、大向を自由にやっていい、AI技術を使った獅童ツイン等々バラエティの前説みたいな感じで会場を見事に暖めました。
いざお芝居が始まると、音楽は三味線や長唄のオーソドックスなスタイルです。
神代の国が舞台となる前半。日の本を守護する千本桜が見事に花を咲かせており、これを寿いでの節会が行われています。祝いの席ですので、4人の舞人が舞を披露します。
そして中村七之助さん演じる舞鶴姫の登場。花道から出てくるだけで会場が沸くのは流石です。
歌舞伎の中でも舞踊を楽しみに観るタイプなので、この舞の場面は超歌舞伎といえど奇天烈さだけが目立つのではなく安心して楽しめました。(イヤホンガイドでは、「せ〜の○○屋」と掛け声を誘導してくれました)楽しいだけでなくその後の伏線として獅童さん演じる白狐の精に毒入りの酒を飲ませるなど細かい演出もあります。

場面が変わり、悪役の青龍の精が登場し、白狐の精が襲いかかられ窮地に追い込まれます。青龍の精を演じるのは澤村國矢さんです。中村獅童さんと美玖姫を演じる初音ミクさん、新技術を使った演出ばかりが話題になりますが、この敵役を演じる澤村國矢さんの大物感溢れるたたずまいや声のトーンにより芝居が引き締まっていると思いました。青龍の精に襲われた白狐の精と美玖姫は、姿を狐の精と蝶の精に姿を変えてその場から落ちのびていきます。千本桜も枯れてしまいます。物語は義経千本桜がもとになっていますので、キーになる小道具の鼓を狐の精が手にして去っていきます。

場面変わって千年後。初音ミク演じる美玖姫が登場。登場といってももちろん、スクリーン上に登場する初音ミクさんです。枯れた千本桜をみて嘆く美玖姫。そこへ中村獅童さん演じる白狐の精が転生した佐藤忠信。美玖姫はそれを青龍の精の一味と疑い襲いかかります。
この時の足さばきや所作が歌舞伎役者のものになっています。ただ映像や新技術を使うだけでなく歌舞伎の基本動作をきちんと再現しているところが流石です。ところで普段の歌舞伎と違うことの一つに、ペンライトの使用がありました。スイッチ一つで色を幾つも変えられるものを用意している方が多かったです。役者さんの屋号毎に色が違っていて全てに対応している方もいらっしゃいました。
鼓を取り出し、白狐の精の生まれ変わりであることを美玖姫が理解したところで、青龍の精が登場し、美玖姫に后になれと迫ります。しかし、これがうまくいかないとわかると美玖姫に襲いかかります。忠信が登場し、青龍の精をやっつけますが自分も深手を負います。
「数多の人の言の葉と桜の色の灯火を」と力強く何回も叫び、枯れてしまった千本桜を咲かせようとします。このとき、客席のペンライトはピンク色にしてお客さん皆で上に上げて振り上げます。私は値段が安めの折ると光るタイプのペンライトで参加しました。とっても楽しかったです。(58才ペンライトデビューです)その後は、いつもの歌舞伎と異なりカーテンコールがあり出演者が登場。獅童さんは音楽に合わせ片手をつきあげロックコンサートのように観客を煽ります。私はこれまで上演されてきたライブ会場などで上演されてきた超歌舞伎を観ていません。
今回、歌舞伎座では初となった超歌舞伎を観て思ったことは、これも歌舞伎の一つだということ。とっても楽しい演目でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。