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三月大歌舞伎_THIS IS HERO!澤瀉屋さんの活躍

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

今月は第一部の「新・三国志」を取り上げたいと思います。
今回も改めて、歌舞伎とは伝統を継いでいくものであり、そこに美学を感じたということをご紹介させてください。

「新・三国志」は1999年(平成11年)から2年の間にかなりの回数上演された演目で、当時はスーパー歌舞伎として上演、市川猿之助(現 猿翁)さんが関羽を演じていたそうです。
その時、甥である市川亀治郎さん、現在の市川猿之助さんは、関羽の養子となる関平という役をされていました。
当然ですが、まだ私が歌舞伎と出会う前の頃のことです。

今回、歌舞伎座で上演された「新・三国志」の関羽は、市川猿之助さん、関平は甥である市川團子さんが演じました。
團子さんは、市川中車(香川照之)さんのご子息です。
叔父と甥がした役を、叔父と甥が継ぎ、演じるのです。もうそれだけでちょっと泣けます。

さらに言えばスーパー歌舞伎だったものが、23年の時を経て、三代猿之助四十八撰の内として、歌舞伎座の第一部で上演されるということもまた、素晴らしいことだなと思います。

三国志は興味がある人、詳しい人もいることでしょう。
プロローグでは、市川中車さんが羅昆中という名でストーリーテラーとして登場します。
香川さん=昆虫は、歌舞伎でもすっかりお馴染みになりました。
この辺りの柔軟性も歌舞伎の懐の深さといえるかもしれません。

この「新・三国志 関羽篇」は、魏・呉・蜀の蜀に属する関羽、劉備、張飛を中心に繰り広げられます。
蜀のリーダー劉備は、関羽、張飛とともに争いのない世を作りたいと義兄弟の誓いを結びます。「桃園の誓い」です。

劉備は市川笑也さんが、張飛は市川中車さんが演じますが、ここでポイントとなるのは、劉備は実は女だったという設定があることです。
劉備と関羽の間にはプラトニックな愛が存在します。

物語は「レッドクリフ 赤壁の戦い」でもおなじみの大軍を率いた曹操率いる魏の国を、呉と蜀が同盟を組み倒すのですが、
呉の国のリーダー孫権を演じる中村福之助さんがとても勇敢で格好良かったのが印象的でした。
魏の国のリーダー曹操を演じるのは俳優の浅野和之さん。『ワンピース歌舞伎』などにも出演経験があり、今回も歌舞伎座の舞台に立たれていました。曹操の軍師 司馬懿を演じたのは、スーパー歌舞伎では香渓を演じていた市川笑三郎さん。
今回は軍師として立役で声も低めにキリリと凛々しく演じられていたのがこちらも印象的でした。

魏の国の武将、典韋を演じたのはスーパー歌舞伎時代と同じく、市川猿四郎さん。
最近の演目では殺陣や、脇役の一人を演じることが多い方ですが、今回は花道の奥から登場し、立ち回りあり、見得もきりまくりで格好良かったのなんの。
澤瀉屋の見せ所がたっぷりの演目なのです。

演出面では、魏の国が紫、蜀が赤、呉がエメラルドグリーンというイメージカラーがあって、役者はそのイメージカラーの衣裳を着ているので、とても分かりやすくなっています。
上手には魏、呉、蜀の文字が浮かびあがるので、今、どの国の場面をしているかというのもとてもわかりやすくて親切。
また、歌舞伎の定式幕の後ろの紗幕に漢詩が浮かび上がるなど、見せる演出が多かったのもこの作品ならではでした。

二幕目は、赤壁の戦いから五年後、今度は呉が魏と手を組みます。
張飛は無理な戦いを自分の兵士たちに強いたことから人心が離れ、討ち死にし、魏に五万の人質を取られます。
魏の軍師 司馬懿は、武将として力のある関羽を五万の人質と引き換えに、引き抜いた後に殺そうと計画します。義に厚い関羽は自分の命を犠牲にしてでも五万人の命を守ることを選択します。猿之助さんが男気プンプンの役を演じました。

関羽との別れの宴が催され、その席で惚れた女の名を言うというくだりがあります。
関羽は「俺が惚れた女の名は玉蘭だ」と語ります。周りは「玉蘭って誰?」となりますが、
玉蘭こそが、男として生きている劉備なのです。
THIS IS HERO 関羽を猿之助さんが演じた「新・三国志」。ラストは桃の花びらが舞う中、宙乗りで去り、幕をおろします。

猿翁さんの薫陶を受けた澤瀉屋の皆さんの活躍を歌舞伎座で思う存分堪能できる演目でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「三月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。