日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
人生初の「奈良」をエンタラクティブにお届けする短期集中連載。昼食を経て、興福寺で阿修羅像をはじめ八部衆をじっくり見たのが前回。
興福寺の名がついたのは、710年。平城遷都の際に藤原不比等(ふじわらのふひと)によって移されたときに改号されたという。
敷地内には、たくさんのお堂や塔が立っている。
五重塔の隣には726年に建立された東金堂がある。
お堂に入ると中央に薬師如来坐像。
人びとの災いや苦を除き、病を治し、寿命を伸ばし、薬を与え、正しい道を教えるとある。
たくさんのお役目かあるのだなぁ。
特にここ数年は、どれも私たちの暮らしに直結しているではないか。
ありがたい、けど、どうかもう少しよろしくお願いしますと思ったりして。
薬師如来坐像を挟むのが維摩居士坐像と文殊菩薩坐像。さらにその両脇に月光菩薩立像と日光菩薩立像。
日光と月光、また対だ。穏やかなお顔だ。
そして、この東金堂にも四天王立像がいらっしゃる。
広目天に大注目したが、ここはまた、東大寺の広目天とは異なるビジュアルだった。
さらにさらに十二の神将立像も堂内に薬師如来を守るように配置されている。
横長の堂内は正面からしか見学することはできない。スペースもあまりないが、
どうやら大学生らしき人、おそらくゼミ生かなにかではないだろうか。
数名がかなり長時間この東金堂で真剣に坐像、立像を見学していた。
なぜゼミ生かと思ったかと言えば、皆、手に単眼鏡を持っていたからだ。
サークルほどカジュアルな感じがなかったのと、教授?らしき年配の方もいたような気がして、勝手にゼミ生だと決定。
別に間違っていてもそれはいい。
そうして、東金堂を出た。
すると、ピカッと晴れているのに、ミストのような雨が降ってきた。
天気雨だ。正真正銘の天気雨だった。
この日は気温も高く過ごしやすい陽気だったので、このミストのような雨がとても気持ちいい。
何より、お堂に入る前は降っていなかったのが、出た瞬間にパァーッと輝きながら雨を降らせたから驚いた。
なにかいいことがあるような、清々しい気持ちになり、ミストのような天気雨に打たれた。
少し前、東金堂の前に来た時に、チケット売り場のおじさんが手招きして「チケットはこちらだよ」みたいに教えてくれた感じがほのぼのしていて嬉しかった私たちは、
出る時に
「こんな風に天気雨が降ることって、よくあるんですか?」と聞いてみた。
するとおじさんは、手元のスマホを見ながら
「あと10分もすれば止むよ、うん、ほらこれ、もう雨雲ないから」
いや、違う、そういうことではない。
突然の雨に困っているわけでも、腹を立てているわけでもないのだ、私たちは。
「いやぁ、こんなことは滅多にないよ」か「ここでは不思議なことによくあるんだよ」
こういうリアクションを求めていたのだ。
チケット売り場のおじさんは、私たちの想像の遥か上を行く、親切な人だった。
「珍しいこともあるもんだね、きっといいことが起こるんじゃない?」
そういうリアクションももちろんなかったので、
二人でそれっぽいことを言いながら、敷地内を南円堂に向かって歩きだした。
「きっといいことが起こるんじゃない?」
その答えはほどなくして現実になった。
(つづく)