理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
「今日はいつになく落ち着かない様子です。外に出てしまうかもしれないので、出来れば早めにいらしてください。」
気分はなんとなく重い。駅から電話をかけると夫が少し前に電話していたようで、落ち着いた様子。
「これから行くから、外に出ないで家の中で待っていてね」と電話口で伝え、
駅から義母宅までの10~15分の道を歩く。
なんとなく気分が重いから、好きなアーティストの音楽を聴きながら。角を曲がると義母とお向かいさんの姿があった。
桜が満開になるあたたかさのせいだろうか、結局外に出てしまったようだ。
お向かいさんは事情を知っていてくれるので、家に入るように促してくれていたが、
全体的に混乱してあまり聞く耳を持たない感じ。
毎日朝のうちにデイサービスに通っているので、出かけないことに罪悪感や焦りを感じるみたいだ。
昼食を食べてもなんとなく落ち着かない様子と行動が見えた。
お腹がいっぱいになればお昼寝タイムとなるのだが、このままでは買い物に出るのも少し不安なので、散歩に行こうと義母を誘った。
ほんの少し歩いた先にあるお宅に立派な桜の木があるからだ。
距離にすると100メートルあるかないかくらいのところだ。
靴をちゃんと履いて、シルバーカーを押して歩き出す。
ふらりと出てしまう時はこのシルバーカーなしでつたい歩きをしてしまうので怖い。
20メートルくらい歩いたところで、「ずいぶん遠いねぇ」と義母。
もう少しだよと言いながら桜の木が見えるところまで来た。
「ほら、立派な桜の木だよ」とそちらの方にうながすと、
「私はあんまりキレイだと思わない」
思わぬ悪態をつく義母のセリフ。
「え、そんなことないでしょ、もう少し近くまで行ってみよう」
よそさまの家の桜の木だから、近くまで行って悪態つくのだけは阻止したいところだが、
とにかく少し歩いてもらうためにも桜の木の真下まで行った。
風が吹いてヒラヒラと花びらが舞い、なんともいい雰囲気だ。
葉も少し出ているし、かなり年月が経過している桜のようで、木肌は年季が入っている。
「どう? 満開だよ」
ふたたび感想を求めてみたが、結局、桜をキレイと口にすることはなかった。
以前もこのお宅の桜が満開の時、同じように感嘆しなかったことを、うっすらと記憶している。
確固たる理由があるのだろうか。
もしやこちらのお宅と揉めてたりした?
平日の昼間で周りに人はいなかったので、感じ悪い感想は聞かれずに済んだ。
義母の仕事場だった中学校には、桜の木がたくさんあったはずだ。
生徒と一緒に笑顔で記念写真を撮ったことだってあるだろうに。
それと比べると、1本の木には感動しないということだろうか。
ほんの数分の短い散歩を終えて家に戻ると、ちゃんと疲れてお昼寝の体勢に入ってくれた。
5日分のランドリーバッグを抱えて、一人同じ桜の木の下を行く。
今日、満開で咲いてくれてありがとうと心の中でつぶやいた。