アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。
コンビニ兄弟-テンダネス門司港こがね村店-/町田そのこ
コンビニで長いことアルバイト経験のある私としては、題名に「コンビニ」とつく小説とくれば、とりあえず手に取らずにはいられない。この本はそうやって見つけてしまった。
九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その「門司港こがね村店」の店長は、老若男女を問わず、人を惹きつけてしまう魔性の人物だ。そのうえ、とてもお客様思い、家族思いで、優しかったりするものだから、アイドルに群がるファンのように、そんな店長目当てにくるお客様たちがひっきりなし。そんな人たらしの店長と、その様子を冷静に見つめるパート店員、常連さんたちのさまざまな事情が、わりと重めの事情もあるのに、軽やかに描かれている。
コンビニというのは本当にいろんな人がやってくる。お客様もそうだけれど、パートさんも、店長だって。
私が働いていたところは、家族経営の、とてもアットホームなお店だった。バイトの仕事の一つに、店長夫婦の小さなお子さんの相手をする、というのもあった。また、お昼休憩には、学生時代、料理部の部長だったという奥さんの、スッゴク美味しいあたたかいお昼ごはん!そんな感じ。
常連さんも個性的。ある常連さんは、コンビニのおでんのちくわぶが大好きらしく、週に1・2回は来て、5本ほど買っていく。だいたいリズムが決まっていて、「今日あたりあのちくわぶの人がいらっしゃるから、5本以上入れておくように(いつもはちくわぶはそんなに入れない)とお達しが出たり。
私がこのコンビニで働き始めたとき言われた話。働く前からよくお店で買い物をしていたからか、店長は私のことを知っていた。どうやら、私しかかわないジュースがあり、「あれ、売れないからやめちゃおうか・・・」と思うのだが、「いや、あの子が(あの子だけが)買うから、やめないでいてあげよう」と発注し続けてくれていたらしい。良かったのに・・・無くなったら、無くなったで別のジュースを買うから・・・でも、その話を聞いて、けっこう嬉しい気持ちになっちゃったのも、事実。この本の中にも、常連さんの好みに気づいて、さりげなくオススメのチラシを渡したりする場面がある。わりと、見ているのだ。
働いていたからっていうわけじゃないけれど、私もコンビニ好きで、ついついあると、用事がなくてものぞいちゃう。新作のお菓子のチェックをしたり、ケーキとか、最近は特に美味しくなった。ホットスナックだって、大好き。チキンのやつとか、肉まんとか。おやつ(場合によってはランチ)にもなるし。
「門司港こがね村店」は、友人関係に悩んでいる女子学生の癒しの場だったりもする。子供だって、友人関係・対人関係に悩んだよね・・・と思い出す。あの頃って、友達が生活の結構な割合を占めていた。大人になった今は、「苦手な子とは付き合わないで距離をおけばいいじゃない 」と思えるけれど、そうはいかない、というのもわかる。覚えてる。懐かしい。そんな彼女は、このお店で、大好きなスイーツに癒され、また新たな友情も育むのだ。
働いた経験のある人は、あるある、と懐かしんだり、今、時々通っているコンビニを思い出したり、最初から最後までからりと楽しく読めるけれど、なんだか、あたたかなものが残ったりする、そんなお話。