アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。
食べる女/筒井ともみ
じつは私、食べ物がテーマの小説や、エッセイ、漫画が大好き。映像で見るのももちろんいいけど、文章が上手な作家が書いたおいしいものの描写に、より食欲が刺激される。
おいしいものを食べることが何よりも好き。友人とお酒を飲みに行くのは大好きだけど、お店を選ぶ基準は、酒のつまみがうまいこと。お酒を飲むことより食べることに魅力を感じてしまう。旅行に行くのなら、「料理自慢の宿」と銘打っているところに惹かれがち。旅の一番の楽しみは、食事だと思っている……
大きく頷いてくれた人には特におすすめの本。たくさんの食べる女たちが出てきます。ちょっと大人の恋愛の話もあったりして……食べる、恋する、考える、女たちの話。
優しくて、「ちょっとしたレストラン並みの」美味しい料理を作ってくれる恋人に物足りなさを感じている女。
心地よいセックスの後の夜中の志那ソバが何よりの楽しみだという女。
変な石に出会ってから、食事というもの、食べるということ、生きるということをきちんと考え出した女。
料理なんて出来なくていいから、と言っていた夫が、「うまいものが食べたいんだよ」と言って去って行ってしまったことに茫然自失の女。
この短編集、いろんなお話が詰め込まれている。恋愛の話、友情の話、家族の話、ちょっとファンタジーっぽいのもあったりして。
どのお話ももちろん面白いのだが、タイトル通り、よく食べる。そしてなんていったって、出てくる食べ物がどれも美味しそう……
例えば、ある程度、自分で稼げるようになった女達が、自分へのご褒美のエステの後に食べる、いんげんと豚バラのショウガ風味甘辛煮だとか、春菊の磯(海苔)和え。
自動車の運転免許の更新に行った先で知り合った男性が作る、太刀魚のムニエル(こんがりとバターで焼かれ、表面はカリっとして、中はしっとり)、山ウドとクレソンとラディッシュのサラダ(山椒の香りのドレッシング)などなど。ああ、お腹が空いた……
食べる、というのは人間関係にとってもとても大切なことだ、と私は思う。食べ物の趣味が合うから結婚した~、(逆もしかり)とか、胃袋をつかまれた~、とかいうのは割とよく聞く話。私も、食べることが大好きな人のほうが、仲良くなりやすい。現に親しい友達は、たいてい食いしん坊だ。そこが大好き。安くて美味しいと評判の居酒屋や、ちょっと洒落たレストランへ行ったりして、一緒においしいものを食べて、おいしいね、って言い合うのって、それだけですごく楽しい。
それから、この「食べる女」、映画にもなってます。なんと主役を小泉今日子さんが演じている。面白いのは、本には小泉今日子さんの演じる女性は出てこないこと。映画だけのオリジナルキャラクター?
小泉今日子さん演じる雑文筆家のトン子は、古びた日本家屋の古書店「モチの家」の女主人でもある。そして、どうやら、このお店は食に係わる書籍を中心に集めているらしいのだ。料理をこよなく愛する彼女の家には、恋や人生に迷える女たちが夜な夜な集まって来て、悩みを相談しあったり、憂さ晴らしをしたりしながら、トン子の手料理をもりもりと食べるのだ。ほかにも前田敦子さんだったり、沢尻エリカさんだったり、広瀬アリスさんだったりが演じてくれている。もちろん食べ物もたくさん。
こちらも面白いので、本と一緒に、是非。