アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。
東京ロンダリング/原田ひ香
主人公の内田りさ子は、ちょっとワケありの女性。夫と離婚した後、どこにも行くところもお金もなく、住むところを探して不動産屋をまわっていた彼女は、都内のワケアリの事故物件に住んで、その物件をロンダリング(浄化)する、という仕事についた。仕事と行くところを同時に手に入れたわけだ。
最初彼女は、無気力に見えた。誰にも関わらず心を許さず、何も考えず、ただ毎日をやり過ごしていた。そんな彼女が物件を転々としながら、少しずつ何かを取り戻していく。
部屋で人が死んでいたり、これといった理由がないのになぜか人が居つかない物件に、ただ住むだけ、もちろん家賃はタダ。日当だってもらえちゃう。そんな仕事なら、楽だからやってみたい!って思う……? 私はとてもムリ。なんたって、お化けとかが苦手。霊感はまったく無いようで、逢ったことはないんだけど、とにかく怖い。
ずぅっと前、私が他人と暮らしていた時の話。
「ねえ、昨日の夜中、君の足元に女の人が立ってたよ。」
と言われたことがある。もちろん、霊的なアレのことでしょ?
私は見ていない。でもそう言われて背筋がゾ~っとして、1人で家にいられなくなってしまった。この人は私がそういう霊的なお化け的な話が苦手なのをこの人は知っていた。なのに、私は見ていないのに、あえて教える必要ないと思わない? なんで言うかなぁ? 言わなければなかったことと同じで、私が家に1人でいられなくなるなんてことにならなかったのに……だいたい、ほんのちょっとの優しさがあれば、ホントかウソ(だとしたら、最悪のウソ!)かわからないけど、言わなかったはず……
と、なんだか話がそれたが、私自身が霊的なものを見たことはない。でも、だからこそ、怖くてこの仕事はムリだな、と思うのだ。
部屋で人が亡くなったので、幽霊が出るよ……という、わかりやすくロンダリングしないといけない部屋だけでなく、この場所、良く店が変わるなぁという場所は、確かにある。人通りがないわけでもないのに、あまりお客さんが入らない飲食店だとか。主人公のりさ子は、この仕事でなかなか腕の良さ(?)を発揮する。彼女が一度住んでロンダリングを終えた部屋は、一度も苦情が出たことがないのだ。かといって、りさ子が何をするでもない。ただ、住む。生活する。それだけ。
人を遠ざけているりさ子だが、それでも誰とも関わらずに生きていくのは難しい。でも関わりたくない。人に関心を持たれたくない。だから雇い主に言われたアドバイスを一生懸命に守る。
「いつもにこやかに愛想よく、でも深入りはせず、礼儀正しく、清潔で、目立たないように。そうしていれば、絶対に嫌われない」
これさえ守れば日々は静かに過ぎていく。そうしている彼女はどこか痛々しい。
だが、そんな心を閉ざしてしまった彼女に、根気良く接してくれる人たちも現れ、少しずつ癒されていくのだ。
余談だが、私の足元に女の人が立ったマンション、そのすぐ後に空き巣が入って、いろんなものを根こそぎ盗まれた。昼間だから、もし私が部屋にいる日だったら、と思うとぞっとする。だから私は、その女の人は、「ここ、空き巣が入るワヨ、危険ヨ」と、教えに来てくれたんだろう、と思っている。そういった守り神的な感じなものだったのだろう。と、思いたい。思っている。