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境界線を意識せずにはいられない『骨と軽蔑』

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誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する舞台作品は、シアタークリエでの約1カ月の公演を終え、福岡、大阪での上演が予定されているKERA CROSS5『骨と軽蔑』です。
今年初、ご一緒したのは、連載「ひつじのまなざし」でお馴染み整理収納収納アドバイザーのみのわ香波さん。
すばらしき7人の女優(あえて俳優じゃなく女優と書いてみた)が、ケラリーノサンドロヴィッチさん(以下KERAさん)書き下ろし作品でがっぷりよつに組んだ作品。整理収納とリンクするところなんてないかもー!と言いながら、感想を語り合いました。

※以下、作品のネタバレを大いに含みます。

ある国に暮らす一家。姉マーゴ(宮沢りえ)は作家、妹ドミー(鈴木杏)は引っ込み思案? 母グルカ(峯村リエ)は影が薄く、病気の夫を世話しているのは、秘書のソフィー(水川あさみ)。この家の家政婦ネネ(犬山イヌ子)はいろいろ訳知りのようだ。
マーゴの担当編集ミロンガ(堀内敬子)もこの家に出入りする人物。そしてマーゴのファンで彼女を訪ねて来るナッツ・ブラウニー(小池栄子)にもなにか秘密があるようで。
一家は内戦が続く国内で軍需工場を手がけているいわゆる財産持ち。内戦と家族に張り付くいびつな何かは、思いもよらぬ展開を見せていくが……。

キャッチする気はない
コミュニケーションの果ては

みのわ 一寸先はなにもわからないな。そんなことを感じさせる、刻み付けられる舞台でした。
栗原 コワーッと思う部分が次々とありました。
みのわ 姉妹のやりとりは、頭から人の話を聞いていないし、絶対自分が勝ちで終わりたいみたいな様子で、そのやりとりでその日一日の気分が変わっちゃうみたいでしたよね。姉妹に限らず登場人物たちが皆、そういう感じ。
栗原 たしかに……。相手の言葉を受けて打ち返すラリーではなくて、互いに投げ合うけどキャッチする気はないのね、みたいなコミュニケーション。
みのわ 一方通行的でしたよね
栗原 それってイコール戦争なんだと思う。
みのわ ほんとそう。それを言いたかったのかと思ったし、ラジオのシーンも。戦争の時って情報が操作されていたと言われるし、それが今の時代だったらあの頃よりいとも簡単に行われているわけで。そんな中で手紙や電報というのはレトロに生きているんだなとも思いましたね。
栗原 しかも相手のことを思って書き続けていたものだったしね。
みのわ 栄子ちゃん演じるナッツが唯一人間らしいというか、本当の優しさを持った頼みの綱だったなと。
栗原 本当に。たくさんはいなくてもいいけれど、自分のことを思ってくれる人がいるのかなぁ、誰だろうなぁと思ったら、なんだかツーッと泣けてきてしまいました。逆に自分がそう思える相手っているかなぁと思ったら……。
みのわ ナッツは純粋に、今で言う推し活ですけど、マーゴのことが自分より大切な存在になっていましたよね。
栗原 嘘といってしまえばそうなのだけど、作りものの中にも血が通っている感じがして。って、私たち栄子贔屓だから余計そう思えたのかもしれないけれど(笑)。

自分を守ろうとするあまり
決めるのが早すぎる

みのわ 登場人物の中でいえば、峯村リエさん演じるお母さんグルカは、あんなに人に頼って生きていて……でも実際にいそうだなと思ったし。
栗原 いる、最後のグルカのシーンなんてゾワッとしてしまった。もしかして五万といるのでは?と思った。この人がダメならこの人、というように媒介していくような。
みのわ 寄生していくような。ああいう本質を突いた狂気って、どこか一部分は自分にもありそうだし、あれを王道にして生きている人もいっぱいいそうだし。そう思うと、そういう人に魅入られてしまったら怖いなぁ。
栗原 結構現代の闇、のような気もする。SNSとかでも、自分の意に反旗を翻す人がいたらブロックして、また合いそうな人とだけつるんでいってを繰り返す感じと似ている。
みのわ 変にコントロールできちゃうところが怖いのかも。見たくないものには目をつぶっても生きていけるから。
栗原 見たくないものの自分基準がブレないものならいいけれど、その時の感情や偏った形で見たくないものを閉じていくとね。きれいじゃないものもある中で、これが好きとかこれが苦手って選べればいいけれど、その手前でガンガンシャッター降ろしていくと、あるときそれが見えちゃったときに生きていけない、みたいなことになりますよね。
みのわ 合わないとか嫌だとか、それを決めるのが早すぎるんですよね。自分を守ろうとするあまり弱くなっちゃっている気がします。それの最たるものが戦争だと思って。隣国だから戦争していいわけではないし、こうだからダメ、こうだからイイっていう線引きなんて簡単に出来るはずはないのに。『骨と軽蔑』の世界みたいな感じへ早すぎるスビードで行っちゃってるんだな今、と思うと怖いですよね。
栗原 堀内敬子さん演じるミロンガがマーゴから離れるタイミングとかは、然るべきタイミングだったような気がして。
みのわ 私もそう思いました。
栗原 ちゃんと軸が狂っていない人がいてくれてちょっとホッとしました。

家なのか外なのか
イマジネーションが掻き立てられた

みのわ ちょうどいい感じで皆、キャラが立っていたから、その絡みが絶妙でめちゃくちゃ面白かった。
栗原 ナッツは異国の人という設定だったから、ああいう人がいてくれてよかったと思わせてくれたけれど、同じ穴のムジナ同士になったら危ない方向にいっていることに気づけないとかいう感じが、日本を象徴しているような気すらしてしまったなぁ。
みのわ 日本人は互いの主義主張を表に出すことが極端に少ないから。
栗原 皆の総意なんてものはありえなくて、一部の人の操作で戦争が始まってた……みたいなことが本当にありそうで怖い。怖い怖い言ってるだけじゃダメなんだけど。

みのわ
 夫が亡くなってからの後半の峯村さんのイメチェンがすごかった。
栗原 権力を持つと、思想が変わると、着るものが変わってくるよね。髪も立つし。
みのわ 肩幅も広くなるし(笑)。そういえば初めのほうで、「奥さまは真新しい安いテーブルクロスより、シミだらけの高級のテーブルクロスを好む」みたいな台詞があって、結局はそういう人なんだなと思って。生活の安定とプライドの維持が彼女にとって大事だったのかな。
栗原 
たしかにあのさらっと言った台詞もその人の本質を言い当てていた気がしました。
みのわ それにしてもKERAさんの舞台、初めて拝見しましたけど、イマジネーションを掻き立てられる演出でした。後半は特に、家なのか外なのかみたいな。あれもすごいおかしくて。コロナ禍になって、家にグリーンをいっぱい飾る人が増えたじゃないですか。外と家の一体みたいなことを示唆する美術なのかなぁとか、虫も出てきたから、人間も自然の中のちっぽけな一個なんだという意味があるのかなぁとか、すごく面白くてあんなの初めてでした。机もシーンによって中だか外だか変わってくるし。
栗原 あの時空というか、境界は絶対になにか意味があるんだよね。
みのわ 机の下に雑草が生えていたり、階段に蔦が絡まっていたりとか。流れていた水にも意味がある気がするし、出て来ないけれど父親の存在に男性社会の呪縛みたいなものも感じたし。そんななか、水川あさみさん演じるソフィーは何を考えている人かつかめなかった。
栗原 彼女の言動とその後の人生を考えると、これもまた絶対なんてないよなーと感じてしまったかな。
みのわ たしかに、「仕事が出来る人が好きなんです」って言ってたけど、今、そういうこという人も多そうだよなぁって思った(笑)。
栗原 やっぱり現代とリンクするよね。例えばリストラ経験がある人だったら、彼女の発言にウワッ! って思うかもしれないし。自分のライフステージで出くわしたことと、作品ってそれぞれの繋がり方をするから面白いですよね。
みのわ KERAさんが人気があるの、わかるなぁ。ユーモアが入ると反転してより鮮やかになっちゃう。犬山イヌコさんの存在もすばらしかった。
栗原 そしてなんといってもこの舞台のタイトル『骨と軽蔑』って、まさかの……あ、そのネタバレはさすがにやめておきましょう(笑)。
また気になる舞台、ご一緒しましょう。たぶん、6月頃には!!
みのわ 6月頃には!!

牛肉とレタスのあんかけ焼きそばが美味。麻布茶房日比谷シャンテ店

 

今回エンタラクティブしてくださったのは……
みのわ香波 (Kanami Minowa)さん 
整理収納アドバイザー資格取得後、個人宅の整理収納サポートを開始。各種セミナーや2級認定講座を通して、自らの人生を変えた経験や現場経験を盛り込んだ大好きな整理収納理論の普及に努めている。また、ライフワークとして写真整理ユニット「アルバム姉妹」としても活動中。趣味はアート・建築・映画・ドラマ鑑賞。

お片付けは後始末ではなく、始まりです_ひつじPlanning

 

実はお好みのスイーツと組み合わせられるセットでした。黒糖寒天の茶房あんみつ(きなこアイスクリーム)