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19時のアラームが止まらない

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

「19時になるとアラームが鳴るのよ」と女は言った。
「それが毎日毎日続くのよ」

あ、いや、女というか、母が言った。
どうやら偶然的にアラームがセットされてしまって、その解除の仕方がわからないらしい。
毎日19時になるとスマホのアラームが鳴る。
その止め方はわかるが解除の仕方がわからないという。

そもそもは、お知り合いの方に庭の紫陽花の写真をLINEで送りたいのだけれど……という
ヘルプから、毎度お馴染みの遠隔スマホ操作教室でのやりとりがあったのだ。

知人に聞いた電話番号を電話帳に登録するところから始まる。
スマホで電話をしながら操作は出来ないだろうから、
家電でかけ直すところからの説明になる。

一晩あけて、電話帳への登録は出来たという。
それで試しに電話はちゃんとかけてみたといい、
「そのうち写真も送るわね」と伝えたそうだ。
なんだかいちいち微笑ましい。

LINEの画面を見ながら、次はこれを押して、左下の三角だとか、右上の歯車の隣の……
だとかの説明をとにかく根気よく。
そうしてどうにかお相手に招待ボタンまで押せたところで、後は先方のリアクション待ちということにした。

そして、もう一つの案件である。
時計のマークやら、時刻の文字をタッチしてみて!だとか、いろいろ言ってみたが、
母の使っているスマホと同じ機種ではないこともあり、
どうしてもアラーム設定の遠隔操作にたどり着けなかった。

「まあ、いいわ」
少し投げやりな言い方になる母に、
「まあね、19時なら出先で鳴ってしまって誰かに迷惑かけるとかは無さそうだから、
とりあえずは鳴ったら消す、だね」と諭す娘。

「そうね」と少し前向きに同意する母に、
こんな提案をした。

「なんかさ、19時のアラームが鳴ったら何かする習慣にして、その合図のためだということにしたらどう?」
「そうねー、19時っていうと、夕飯終わって、後片付け、洗い物しちゃえばいいんだけど……っていう時間だわね」
「いいじゃん、それ。じゃあアラーム解除できるまでは、そのために鳴らしていることにしなよ、うん、いいね、いいね」

この強引ともいえる娘の提案に、母は案外素直に乗った。
スマホを使っているだけだって、まあ立派なものだと思うが、
使いこなせないことにややネガティブになることだってある母に、
発想の転換が功を奏した。

紫陽花の写真が送れたかどうかは、また今度。
これがスープは冷める距離に暮らしている実母との平和な電話での一コマだ。