日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
人生初の「奈良」をエンタラクティブにお届けする短期集中連載。おすすめを受けた東大寺ミュージアムで広目天と多聞天をはじめとする四天王にロックオンされたのが前回。
東大寺ミュージアムを心ゆくまで満喫した私たちは、次にどこへ立ち寄るかをしばし相談した。
その日の夕方には新大阪から新幹線に乗って帰京しなくてはならないため、時間を逆算して行程を考えねばならない。タイトにして最後はダッシュ……なんていうのは、もうしない大人旅である。
正倉院も気になるけれど、次に行くところと反対の方角だ。
お鹿さまと戯れながらしばし考え、向かいにおすすめの茶屋があるよと事前にアドバイスをもらっていた二月堂に行ってみることにした。
昼前なのでお茶はしないけど、見晴らしのよい二月堂までの少しの散策は気持ちが良さそうだ。
境内の案内図を見ながら、ゆるりと歩く。
鹿せんべいを売っている鳥居の近くには、当然のことながらお鹿さまが群がっている。
そういう人混み、いや、鹿混みはすぐに通り抜けて、雑木林の間をゆるりと歩く。
ここで会うお鹿さまは、ゆるりとしている気がする。
二月堂に続く道に出ると、またもや遠足の小学生ご一行とすれ違う。
事前に授業で予習もしてきたようで、引率の先生が「二月堂で行われていたのはなんでしたか?」とか、「法華堂は別名三月堂と呼ばれています」など、はきはきとよく通る声で解説をしていた。
あるご一行の先生のノリが愉快だった。
「左に二月堂があって、ここが三月堂、ということは振り返るとそこにあるのはー--?
そう、正解! 四月堂です!!」
小学生たちはさほど盛り上がってはいないけど、そんなことは関係ない。ここに来たら、このノリと決めているに違いない。
愉快のおこぼれを少しもらって、二月堂に向けて石段を上がる。
二月堂は旧暦の二月(現在の3月1日~14日)行われるお水取りが行われる場所。
お水取りは、修二会(しゅにえ)という僧侶たちが人々に代わって罪を懺悔し、天下泰平や五穀豊穣を祈るために、お堂のそばの井戸から水を汲み本堂に納める儀式だ。
お水取りの最後に行なわれる、二月堂の舞台と呼ばれる廻廊を松明をかかげて走る勇壮な達陀(だったん)が、奈良の季節の風物詩として有名である。
その廻廊でもまた、遠足の小学生と行き合った。
制服がかわいい。
「ねぇねぇ、人が通れないから避けたほうがいいんじゃない?」
いつの時代にもちょっと大人びた口調で男子に指示する女子はいるものだ。
「避けろって!」と伝言する、素直&お調子者の男子も健在だ。
それは軽く10年たっても、40年たっても(一気に飛ぶが)変わらないトーンなのがなぜか嬉しい。
憂う必要などない。「し」を入れれば嬉しいになるじゃない。
などと、うまいことを言った気になるのもいかがなものか。
廻廊からよく晴れた奈良市内を一望し、風に吹かれていい気分になって二月堂を降りようとしたとき、気になるものを目にし、私たちは今来た廻廊を茶店と社務所のある入口まで戻った。
(つづく)