日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
午前中にとある場所を訪れ、所用をすませた。
昼食をどこで食べようかということになる。
夫にはプランがあるようだった。
「鰻を食べに行こう!」
毎年5月は鰻を食べに行くことが多い。
理由は、12年前、結婚後に四万十を訪れ、ここで食べた鰻がたいそうおいしくて、
これからは年に一度くらいでいいから、鰻は美味しいところで美味しいものを食べよう。
というルールが出来たからだ。
ナビの目的地に、目当ての鰻やの住所を入れる。ここから15分もかからないみたいだ。
助手席の私がその店を検索してみる。
次の瞬間、定休日が水・木とあり、今日がまんまと該当していることに気づいた。
残念無念。評判のいい鰻やさんだったみたいだ。
さあ、このしっかり鰻腹になってしまったものを、ほかのメニューで補うのは無理そうだ。
検索をかけまくり、そこから約1時間走った先にある別の鰻やさんを目指すことになった。
レポートを見ると、柴又の名店からその昔、暖簾分けした店らしい。
目的地は国道から少し逸れたのどかな住宅地の中にあった。
お昼時を少し過ぎた時間帯。お店はなんとなく一巡した後のようで、先客は2組いた。
すぐに片づけてくれて、ゆったりとした座敷に腰をおろした。
仕入れの関係で大ぶりな鰻しかないため、メニューの代金が少しイレギュラーになると説明を受けた。
車なのでお酒は飲めないこともあり、鰻はぜいたくにいただくことにした。
最初の目的地に行ってから定休日だったとがっかりすることがなかったことを一つ目の良かったこと……として、
今、入ったお店がとてもいい感じであることを二つ目の良かったこととしながら、
鰻が焼けるのを待った。
そろそろいい香りが漂ってくるぞという頃、夫が小声で言った。
「カード、使えないよ」
オーマイガー、どうしよう?
お出かけ想定をしていなかった私は、特になんの意識もせず、普段使いのクレジットカードと
小さな財布に少しのお金しか持ち合わせていなかった。
夫もあまり手持ちがないという。
気が大きくなって、特上を注文していた私たちは、もうすでに現金が足りないことに気づいてしまった。
近くにコンビニ、あったっけ?
そんなに近いところでは見かけなかったよね?
このお店なら、一人残っていればお金を降ろしに行くという事情も飲んでくれるだろう
などなど、二人で慌ててヒソヒソと話した。
なんだか格好がつかないなぁ。
ちょっと恥ずかしいなぁ。
そんな風に思っていた時に、あっ! となった。
私、あるかも……!
電子マネーやクレジットカードでの支払い機会が増えたタイミングで、現金をいざという時ように忍ばせておくことをしていた。
しかし、いくら入れていたっけ?
使って補充してないとかじゃなかったっけ?
バッグを探り、しばし現金を捜索。
すると、思ったよりちゃんとした金額が見つかった。
「おめでとうございます。大丈夫です!」
そこから先は鰻パラダイス!!
運ばれてきたうな重は、蓋がちょっと浮き上がるほどで、
実に食べ応えがあった。
水がいいのだろう。米も有名なブランド米が使われていて、
お吸い物もお茶も美味だった。
主役の鰻は、タレが甘ったるくなく、さっぱりと美味しい。
恐らくご夫婦で営んでいるのだろう。
焼き場は見えず、女将さんがせっせと運び、電話もひっきりなしに鳴っていた。
「あ、ちょっとお待ちくださいね。多分大丈夫だと思うんですけど……」
女将さんは、予約の問い合わせに関して、必ず厨房に念のため確認してから
電話の向こうのお客さまに対応していた。
こうしてずっと何年も何十年も客商売をしてきたのだろうなと感じるシーンだった。
こうして私たちは結婚記念日に、あわや無銭飲食なんてことにならずに済んだし、
どちらかが慌ててATMでお金を降ろしてくるのをどちらかが店に残ってトホホと待たずに済んだ。
さあ、忘れずにまた、「いざという時のための現金」を補充しておこう。
本当にこれ大事。
お出かけや記念日は結構いろいろなことを教えてくれる。