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いちばん好きな花、じゃない。

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

年末、いい加減にしていたことをいい加減やめようと
地元のケータイショップに出向いた。
最近の手続きは大方web上で出来てしまうけど、解約が伴うものは店舗を直接訪れることが必須だった。
コロナ禍以降、予約制度がしっかりしたこともあり、
私もほとんど待ち時間なくカウンターに案内され、無事に手続きを済ませることが出来た。

細かいことは割愛するが、実は数日後、もう一度ショップを訪れることになっていた。
前回も今回も、ショップの入口付近では、高齢者を対象とした「スマホ教室」が開かれていた。10名程度の方がコの字にした席につき、講師の方の説明をスマホを片手に聞いている。

アカウント、ログイン、セキュリティ、ほとんど片仮名しか出てこない説明を
皆、静かに聞いているようだ。身動きひとつせず。
サラーっとアカウントって言ってるけどそもそもそれがわかってないような顔に見える。
講師の方は構わず、結構なワイルドスピードで進めていて、
「4ページ、5ページは今日は〇〇なので飛ばして、次6ページにいきます」みたいな感じ。
そもそも飛ばす理由がよくわかっていないような顔に見える。

別の待合いイスでは、年配の方が店員にスマホをどうしたいか、目的を聞かれている。
「電話が使えればいいんだ。それ以外の使い方は、来年使い方教室を予約してるから……」

どうやら「スマホ教室」は連日満員御礼状態らしい。
到底使いこなせない機能がたーくさんついたスマホを持て余し、
とりあえず電話に出たり、かけたりすることだけを取り急ぎ知りたいのだ。
わかりすぎるほどわかる状況を見て、どんよりした気持ちになった。
遠くない将来、私もこうなるだろうな、きっと……。

ほんの2~3分の間にどんよりしていたら、カウンターに通された。
私への説明の中にも、アカウント、ログイン、パスワード、セキュリティなどのワードが
当たり前のように出てくる。
「こういうの、ついていけなくなるんだろうなと思って……」とおちゃらけるようにつぶやく私に、まだ新人らしき店員さんは
「では今のうちに……」みたいな、まったくフォローになっていない相槌で背中を押してくれた(笑)。

諸々の手続きを進めていると、隣で接客を受けていた60代くらいの男性が立ち上がって
「責任者呼んでくれない」とすごんだ。
プライバシーもあるから、なるべく聞き耳を立てないようにしてはいたが、
どうやら最初の案内といざ手続きをしていく上での金額に違いがあり、事前にその説明がなかったことと、客側が気づかなかったら余計な支払いが生じていたことに対して謝罪を求めるような内容だった。(じゅうぶん聞き耳立てちゃってるな……スミマセン)

すごんだと書いたが、声を荒げたりはしてなかった。
しかし、一度入ってしまった不信感スイッチはどんどんエスカレートしていき、
何度も何度もネチネチとモノを申していた。
それなりに知識もあって、冷静な人なのだろう。
数字に強そうだから頼りになるのかもしれないけれど、
一歩間違えれば、パワハラ、モラハラタイプの人だなと
店員へ続くネチネチ度合いを片耳で聞きながら思っていた。

こうなると私には、必要以上の朗らかスイッチが入ってしまう。
目の前の新人店員さんは、隣の様子を感じてちょっと萎縮していたからだ。
カウンターの奥、担当さんの右後ろには先輩が控えていて、
わからないことや滞りそうな時は、すかさずアドバイスしてくれるので、
なにも私が気を使うことでもないのだが、スイッチが入ってしまうものは仕方がない。

事務的な手続きががつづく中で、少しおどけて質問や確認をしてみたりした。
忘れてしまいそうなことは恥ずかしがりながらメモを取った。
ついでにちょっと知りたい操作方法も聞いてみたりした。

やがてお隣の立腹客は店を後にしていた。
すごまれても、ネチネチ言われても、トーンを大きくは変えずに対応していた担当さんとその上司の完璧なまでの冷静な対応だったように思う。

そうこうしているうちに私の手続きも無事終了。
そして私はカウンター窓口のすぐ横にある花瓶に挿してあった造花の花を一本取って
彼女の前に置いて席を立った。

実は前回来た時にその造花の存在を目にしていた。
花瓶には「お客様対応に満足いただけた場合は、一本取って担当者にお渡しください」というメモが貼られていたのだ。
前回は、次の予定があったので、途中でベテランの店員さんにかなりいろいろなことをスキップしてもらいながら進めてもらった。
逃げるように店を出たので、出口まで送ってくれた担当の方には
「気持ちだけあの花を渡しますね」と声かけをしていたのだ。
少し驚いて、でも冷静に「ありがとうございます」と笑ってもらった。

今回は少し萎縮気味の新人さんらしき担当さんだったので、私が一輪の造花をカウンターに
置いたら、とても驚いていた。
ドヤ顔してたとしたら、それがバレるのが恥ずかしいので、
私は素っ気なく、そしてすばやく店を出た。

あの店であの造花は一日何本手渡されるだろう。
カスタマーハラスメント問題は、今日もあらゆるところで発生しているだろうし、
私だっていつそんな態度に出ないとも言えない。
ほとんど客の自己満足でしかない、その造花渡しだが、
実は花瓶に挿してあった造花は何種類かの花が混ざっていた。
大きめのガーベラ、アザミのような花、デンファレみたいなのもあったかな。

実は自分がもらったら嬉しい、その中で一番好きな花は渡さなかった。
店員さんの接客は、もちろん丁寧で悪くはなかったけれど、
最高に良かったわけではない。きっとこれからなのだろうし。
選んだ花の種類に意味を込めたことは、もちろん店員さんには決してわからない。