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今年の桜とスルルッの言葉

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

仕事を終えて九段下駅を経由して自宅のある最寄り駅までの地下鉄に乗り換える。
九段下の駅では、ひっきりなしに「駅構内での待ち合わせはご遠慮ください」「2番出口は大変混みあいます。ほかのお出口からのご利用をお願いします」とずっとアナウンスしていた。
桜満開。千鳥ヶ淵の最寄り駅である九段下は花見客でごったがえす。
加えて日本武道館ではおそらく大学の入学式などがあるのだろう。
きれいなスーツに身を包んだ親御さんと、若者の二人連れが数多く行き交っている。

私は経由するだけだから、最短のルートを歩いて乗り換える。
でも初めてこの駅を利用する人も多いだろうこの日は、なかなかまっすぐに歩けなかった。
「駅構内での待ち合わせはご遠慮ください」と言われても、じゃあどこならいいのだと聞く耳は持てない空気が渦巻いていた。
それでもどんよりではなく、ウキウキした感じが勝っているのは、やはりスタートの春、だからだろう。

最寄り駅から自宅までの帰り道。自転車に乗って、中学校の脇を通り、裏門前に出た。
「あぁ、桜がきれいだなぁ。満開だなぁ」と思ってふと見ると、
以前、お隣に住んでいた娘さんとママさんが、校門前で写真を撮っていたことに気づいた。
嬉しくなって、ブレーキをかけ、久しぶりに会話をした。
娘さんはぶかぶかの制服を着ている。

入学式は2日後だが、桜とともに新制服で写真を撮りに来ていたらしい。
あの小さかった娘ちゃんが、スラリと背の高い中学生!
「ご入学おめでとうございます」
おめでとうの5文字がこんなにスムーズに口から出るのは気持ちがいいものだ。
「充実の中学生活を過ごしてくださいね」とも言った。
楽しい中学生活と言ったっけ? どちらか思い出せないけれど、気持ちとしては間違いなく「充実の」だった。

スルルっとうまいことを言いたいという欲がある。
そんなことを思っている時は、たいていうまく言えないもので、
でも本当に思っていることは、スルルっと出るのかもしれない。

嬉しい気持ちがこみ上げて、じゃあね! と二人に手を振ってそこからすぐの自宅に戻った。
それから今度は暗くなる前にと、夫と近所の桜スポットでもあるジョギングロードへ散歩に出かけた。聞かれていないが、私たちはジョギングしたことはない。


桜満開。人、いっぱい。屋台大混雑。酔っ払いはあまりいない。犬同伴多い。外国人かなり多い。
それでも混雑している場所特有のなにか殺伐とした感じはなく、ゆるゆるとした空気が流れていたのは、4月の桜を楽しめるのが久しぶりで、こういう光景が久しぶりだと感じるからなのではないかと思う。

橋から桜をバックに自撮りを試みるも、普段自撮りをしていなさすぎて、何度も失敗して笑ってしまったり、夕日と桜のタイミングが微妙に合わなかったりもしたけれど
「あぁ、きれいだったね。今日見れてよかったね」という言葉はスルルっと出た。
本当に思っていることは、スルルっと言える。
今年の桜はそんな当たり前のことを教えてくれた。

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