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しんどい夕日

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

昨年末、スマホを新しい機種に変えた。
先日、ちょっとした不注意でそのスマホを落とし、表面のコーティングにヒビがいってしまった。
ほんとうにわかりやすく自分の不注意が原因だったので、
そのヒビを見るたびに嫌な気持ちになって、これは不健全だからさっさと取り換えようと思い
ショップに出向いた。

幸い、機種自体には傷がいっていなかったのでコーティング部分だけを取り換えることで済んだ。余計な出費ではあるけれど、その場で元に戻るのだから良しとしよう。

週末ということもあるからだろうか、手続き後、かなりの時間待つことになった。
当のスマホは預けているから、手持ち無沙汰だ。
待つ場所に指定された席からは、遠くてテレビは見えない。
そうなると私の耳だけが完全にフル回転することになる。
以前もそうだった。

いちばん好きな花、じゃない。日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。 ケータイショップで見かけた光景と、退店時に私が渡した造花のお話。...

主要ケータイキャリアの中で、最も利用者の平均年齢が高いことは確実だろう。
店内は老人が多かった。
あぁ、またこれだ。なんかしんどい。

通話だけが出来ればいい。使い慣れた二つ折りの電話がいいという老人に、
丁寧に、でも二つ折りは近い将来取扱い終了となるため、スマホを薦める店員さん。
でもやはり慣れたものがいいという客に、今度はwifiの説明をする。
それはいらないと断り続ける客。
ああ、しんどい。

別のテーブルでは、副店長だという人の苗字を何度も口にしている老人が、結局操作を聞いている。副店長ならいつも教えてくれるのだそうで、ショップの電話番号の電話帳登録名にその副店長の名を入れるよう指示している。
なんとなくことが収まったと思ったら、今度はラジオを聞きたいという。
ここでもwifiの説明になるが、それより声で言えばラジオが聴けるのだろう、そのやり方を教えて欲しいという。
「このままでは見れないので…」と店員が言い間違えると、すかさず「見たいんじゃないの、テレビじゃないんだから、NHKラジオが聴ければいいの。FMとかあるでしょ、FMは音楽でしょ、私はNHKがいいの」
ああ、しんどい。

少しして、ラジオが聴ける設定にたどり着いた。料金がかかるのか、否かも聞かれ、データ料金の見方も丁寧に教えている。
店員さんだっていつまでも付き合うわけにもいかないだろうから、程よいタイミングで担当を入れ替える仕組みのようだった。
すると、その客は店員さんに名前を聞き、生年月日を聞き、血液型まで聞いた。
たぶん答える必要はないと思うが、店員は早く済ませたかったのだろう、聞かれたままに答えていた。
「悪用はしないから。私、いつもこうなの。あなたよくしてくれたから」という。
そうなんだろう、副店長の名前を連呼していたのもこういうやりとりがあってのことなのだろう。

あぁ、しんどい、しんどいよー。

このショップでは、これが日常茶飯事なのだろう。もっとこじらせてしまう場合もざらにありそうだ。
しんどいの理由を考えた。

一つは、これは将来の私の姿なのかも……と考えると、気持ち的にしんどいということ。
一つは、この複雑さからこうなることは考えればわかるし、店側だって不毛な時間を費やすことも多いだろうに、この売り方がベストなのだろうか。高齢者に対してこれでいいのだろうか……ということ。

ああ、しんどい。しんどいよー。

耳がフル回転してしまっていた私は、待ちながら、3回くらい頭を抱えた。
こんなことなら本でも持参すれば良かった。

それから数分の後、ピカピカになったスマホが戻ってきた。
かなり待たせたことへのお詫びを聞いたところで
きれいになって良かったと安堵の表情をしてみせた。
「本体が傷ついてなくて良かったですね」とベストスマイルで渡してくれた店員さんに
思わず、「あなたお名前なんて言うの? 血液型は?」

と、聞くわけはもちろん、ない。安心してください。

代わりに「もう落とさないように気を付けます!」と謎に宣言して店を出た。
駅前のデッキからちょうど落ちる夕日が見えて、また少しせつなく、しんどくなった。