理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
奈良での1泊2日の旅は、「奈良に行ったなら」でご紹介した。全10回も。
当然、義母宅にもお土産を選んだ。
とは言っても、食べたおやつのことはひと眠りすれば記憶の彼方に飛ばす義母なので、
お土産選びも気軽にした。
選んだのは奈良と言えば……で、葛湯。
大好きな小豆の味で、お湯を注げばすぐに飲めるものを義母の分と私の分、二つ購入して旅から帰った最初の義母宅デイに持参した。
義母は甘いものが好き。90歳になった今も、食べ過ぎてウップとゲップを出すことはあっても、誤嚥やもどしてしまうことなどはまったくない。
本当にそれがすごくて、それで助かっている。
だから、介護と聞いて想像するような「食べさせてあげる」みたいなことはなく、
「食べてもらう」なので私もかなり気楽なのだ。
入れ歯だから、噛みきりづらいものなどは避けるようにはしているものの、
入れ歯歴が長いこともあり!? 大抵のものは砕く力も持ち合わせているので、問題はない。
さて、その日のおやつとして出した小豆味の葛湯をテーブルに運んだ。
「お義母さんは奈良に行ったことがある? 」
「あるよ」
義母はすぐに返事をした。
「修学旅行で行ったのかな? それとも研修旅行とかで行ったかな?」
「そういうのはわからない」
まあ、最近の会話はこんな感じが多い。
「どうして? 奈良がどうしたの?」と聞いてくれることはない。
そもそも今のような状態になる前も、こうして聞き返してくれることはほぼない義母だった。
でも私はそんなことはお構いなしにこう続ける。
「どうして奈良に行ったことがある? って聞いたかというとね……」
こんな風に話すタイプだから。
これが出来る人はいいけど、自分から話すタイプでない人も多いと思う。
話しかけながら、義母が教えていた、たくさん中学生の中にも
「ねえねえ、聞いて!」と話しかけるタイプの生徒と
聞かれるまでなかなか話せないタイプの生徒がいただろうなあと勝手に想像してみたりした。
とろみのついた葛湯は、甘さは控えめだ。
義母は美味しいと一言も言わなかった。
知ってる。義母にとって「旨さは甘さ」だからね。
それでも付け合わせに出したあられを途中でパクパクつまみながら
スプーンで葛湯を飲み切った義母に嬉しくなって、
「奈良の、本場の葛を使った葛湯だからね。東大寺のそばで買ってきたやつだから、
きっといいことがあるよ」
と無責任に話を盛って、本日のおやつ~奈良旅編は終了だ。
次にコンビニやスーパーで買う、ひたすら甘いどら焼きは一口食べたところで
「あまくておいしいねー」
とすぐにいうけれど、まあそれはそれ、なのだ。