誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する作品は、ミュージカル『マチルダ』。
イギリス生まれの本作は2010年にミュージカル化、今回は日本人キャストで初上演となる作品です。
ご一緒したのは、エンタラクティブライフの連載Tea and・・・でおなじみのイノチカことまつうらちかこさん。
東急シアターオーブでの観劇後、ティータイムがクローズになる時間までたっぷり感想を語りました。
主人公のマチルダ(嘉村咲良)は5歳の少女。本を読むことが大好きな天才ですが、両親(斎藤司・大塚千弘)は偏った考えの持ち主で、そもそも彼女に関心がない様子。寂しいはずのマチルダですが、図書館司書のミセス・フェルプス(岡まゆみ)やクラスの担任、ミス・ハニー(昆夏美)らの存在もあり、いつだって自分の正義感を盾にして、前を向いています。
天敵は学校長のミス・トランチブル(小野田龍之介)。横暴な彼女を前に子どもたちや教師たちは萎縮するばかりですが……。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
むしろ私たちに効く
「人生が不公平なら 我慢より行動しなきゃ」という歌詞
栗原 ようやく劇場にご一緒できました。これまで2回、おすすめのミュージカルをご一緒する予定でしたが、2度続けてコロナによる公演中止にぶつかってしまって断念してきたんですよね。
松浦 そうでしたよね。観る予定だった作品、どちらもとても楽しみでしたが、今日劇場でこの作品を観て、これを観るためだったんだ! と思えるほど感激しました。
栗原 大人もしっかり泣かされちゃいましね。
松浦 ブランコのシーンでは涙が出ちゃいました。それにしても子どもたちのエネルギーってすごいなと思いました。実際に演じているキャストとしての子どもたちもそうですし、ストーリーとしても子どもたちの力を見せつけられた気がして、「大人もしっかりしてよ!」なんて思わされちゃいました。自分も含めてですけれど。
栗原 劇中で歌われる「♪NAUGHTY/ちょっと悪い子」の歌詞に出てくる、♪逃げていたらチャンスなくなる 何もしなきゃ それでいいと言ってるのと同じ とか、
人生が不公平なら我慢より行動しなきゃ というメッセージは効きましたね。境遇によっては逃げるのも時に正解だけれど、正しいことがわかっている時、どうするのか、ホント、「大人たち、聞いてるか!」って言われている感じがして、普遍的なテーマでありながら、今の世の中にぴったりという気もしました。
「答えは特に用意しないけど、考えてね」
が散りばめられている
松浦 今回強く感じたのは、大人が子どものことを全然見ていないなって。それも突き付けられた気がしちゃいました。登場人物の中では、ミス・トランチブル校長先生はかなり病んでるので、あの先生はどこでどうしてそうなってしまったのかが気になっちゃいました。彼女のああいう闇は連鎖してしまうよなぁって。
栗原 たしかに。マチルダやミス・ハニーが抱えていたものは、彼女たちの勇気や決断で止められたからハッピーエンドではあったけど、校長先生の抱えている闇に関しては、考えちゃったよね。
松浦 子どもたちの団結力は文句なしにとても素晴らしかった。あれは昆夏美さん演じるミス・ハニーのような大人の味方がいたから。そういう大人が一人でもいれば、子どもたちは羽ばたけるんだな、あれだけ虐げられていても自分を持っていられて団結出来るんだなというのも感じました。あの子どもたちが力強く歌い踊るシーンは本当に素晴らしかったです!
東急シアターオーブの下にあるTHEATER TABLEでオーダーしたケーキは、オペラ。劇中のあるシーンが影響したかも!?
子どもの頃観たミュージカルは
『ピーターパン』
栗原 楽しいシーンもたくさんありました。物語の後半、なんとブルガリア語が出てきましたね。あれ、見事だった! いや、合っているのかはさっぱりわからないけれど(笑)。
松浦 ブルガリア語というところが絶妙でしたよね。イタリア語とかスペイン語だったら観客の中にわかる人もいそうだけれど、ブルガリア語となると(笑)。
栗原 デザートはつい、オペラを頼んでしまったけど(笑)。
松浦 あのチョコレートのシーンはすごかったですね。私、NETFLIXの映画でも『マチルダ・ザ・ミュージカル』を観ましたけど、映画でも罰としてチョコレートを食べさせるシーンは見ているだけで苦しかったです。
栗原 体罰に関して今の時代はまったく受け取り方が違うから、今の子どもたちが観たらびっくりしちゃうよね。
松浦 たしかに。あのシーンって子どもたちが観たらどういう感想を持つんだろう? 気になる。
栗原 子ども向けのようで、そうでもないような。
松浦 大人が突きつけられる感じが強かったです。
栗原 この『マチルダ』を観た子どもたちの感想、聞きたいですね。
栗原 ちかこさんは子どもの頃、ミュージカルとかご覧になった経験はありますか?
松浦 『ピーターパン』を観ましたね。小学校高学年頃だったかな。(榊原)郁恵ちゃんと、香坂みゆきさんのウェンディがすごく可愛くて印象的でした。舞台上のエネルギーみたいなものは強く覚えていますね。今日も観ていて思いましたけど、子どもの声って澄んでいてきれいで、エネルギーの塊ですよね。
栗原 子どもたちの声は張りがあって、聴きやすかったですよね。皆、オーディションを勝ち抜いてあの場に立っているんだと思います。マチルダはクワトロキャストといって、4人で日替わりですね。
やっぱり床下収納も本棚収納も
気になっちゃいました
松浦 今日、ミュージカルを改めて観てみて感じたのは、場面の展開、転換がもの凄く計算されているんだなということ。一人で感動していました。
栗原 流れるように、ページをめくるように展開していきます。
松浦 だから世界に没入できるんですよね。照明の使い方も素晴らしかったし、こちらに注目している間にスーッとセットが変わっていたり、ぶんぶん振り回されるシーンとかわかっていながら、しっかり驚かされちゃいました。まったく飽きさせない仕掛けだらけでした。セメダインが下から出てきた時は、「え、そんなところも使うの?」ってびっくりしちゃって。
栗原 アドバイザーだから、床下収納だ! とすかさず思っちゃったし、図書館の本棚も気になったのでは?
松浦 そうそうそう。
栗原 立てずに横にしちゃってるなーなんて思ったでしょ? それ、職業病ですからね(笑)。
松浦 気になっちゃいました。
観終わって今、願うことは
子どもたちの、そして大人たちの未来
松浦 私はマチルダちゃんが希望を失っていない、あの芯の強さに本当に勇気づけられました。彼女は読書が好きだったこともあるけど、頭の中でこうなりたいっていうことをイメージしていた。それはやっぱり大切だし強いんだなと思いました。
栗原 本当ですね。だから彼女が父親の言葉を聞き逃さずに「娘って言ったの?」と確認するシーンはジーンとしました。
松浦 そう。でもあの後、マチルダちゃんは親に執着しないじゃないですか。ちゃんと自分の道を歩いていくというところが感動です。
栗原 そうだね。1個スタンプを押してもらって次に進むみたいな……。
松浦 カッコ良かったな。
栗原 ミス・ハニーがマチルダを幸せにし、マチルダもミス・ハニーを幸せにするという道が続いていく感じがいいよね。観客は物語のその後を思い描くのは自由。あの二人の何年後、何十年後に今回解決していない部分が解決するような未来だったらいいななんて思ったりしました。
松浦 人って置かれた環境で価値観が違ってくるじゃないですか。マチルダや子供たちとミス・ハニーだけじゃなくて、彼女たちの幸せと共に、マチルダの両親や校長先生たちにも気づきがあって、明るい未来がつながる世界であって欲しいな、なんて観終わった今、願っています。
栗原 観終わった時に勇気が湧いたのって、あの子どもたちの未来を願えたからなのかなって思います。勧善懲悪って今の世の中、全く気持ち良いものとは捉えられないじゃないですか。悪者をやっつけてイエーイとは思えない。それでも勇気や希望を感じたのって、マチルダたちが大人になっていく未来に、子どもの頃経験したことが糧になると思えるからなのかなって。
クラスメートの男の子だって大きくなって何か苦しい局面に立たされた時、「そういえば昔クラスメートにマチルダって子がいてさ……」そんな風に思い出して打開できるかもしれない、そうだったらいいなって思えたんですよね。
松浦 映画を観た時はストーリーを追うのに必死だったところもあったけど、今日はストーリーがわかっていた分、一つひとつの会話や関係性に浸れたので良かったなと思います。
先ほども言ったあのブランコのシーン、子どもたちが一生懸命漕いで、歌っているところを見て、こんなに小さいエネルギーが、観客のために一生懸命演じている姿を見て、知り合いでもないのに感動しちゃって泣けてきちゃった。今も思い出してちょっとこみ上げてます。
栗原 今後観てみたい作品などありますか?
松浦 今回、子ども向けかと思いきや、大人に対するメッセージがたくさん込められているなということを感じられる作品に出会えて本当に良かったです。もともと児童文学を専攻していたので、今作のように児童文学を基に作られる作品はこれからも注目していきたいです。逆に私が自分では絶対に選ばなそうな作品でオススメがあればまた、ぜひ誘ってください。
栗原 またご一緒しましょう。
ミュージカル『マチルダ』
東急シアターオーブ
2023年3月22日(水)~3月24日(金)<プレビュー公演>
2023年3月25日(土)~5月6日(土)
2023年5月28日(日)~6月4日(日)
梅田芸術劇場メインホール
作/DENNIS KELLY
音楽・作曲/TIM MINCHIN
翻訳/常田景子
訳詞/高橋亜子
演出補/西 祐子、藤倉 梓
出演/嘉村咲良、昆 夏美、斎藤 司、岡 まゆみ、小野田龍之介、大塚千弘、松浦歩夢 ほか