ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます
『最高のオバハン 中島ハルコ』は、2021年春のクール、2022年秋のクールに東海テレビが制作した大地真央さん主演のテレビドラマ。
原作は林真理子さんの「最高のオバハン」シリーズである。
大地さんをつかまえて、オバハンと名乗らせるなんて!! と思う人もいるかも知れなかったが、あのCMをはじめ、数々の喜劇作品にも出演している大地さんの吹っ切り方が爽快で、
令和の水戸黄門と呼ばれた。
そう書きながら、実はドラマはリアルタイムでは観ていなかった。
配信で観たという友人から、ドラマも面白かったから舞台観てみたいわ!とリクエストが入り、シアター1010で観劇した。
舞台『最高のオバハン 中島ハルコ』は大地真央 芸能生活50周年記念公演とうたわれている。選挙ポスターばりにドーンと主人公中島ハルコがゴージャスなドレスで正面を向いているチラシ。
ここまで来たら、もう何も心配することはなく、ただただ笑いに行こうと決めていた。
ちなみにドラマは観劇の寸前に慌てて観た次第。
そもそもドラマも時代劇的な大きな芝居で、ほどよくテロップがツッコミ的に入るのが愉快だ。
中島ハルコは美のカリスマ、ハルコクリニックの院長。
歯に衣着せない、というより超絶毒舌でいながら、さまざまな問題をハルコ流に解決していく。
人をだましたり、ズルをしたり、煮え切らなかったりする人たちをバッサバッサとその舌で斬っていくのだ。
お金持ちなのにドケチなところも面白い。
お金持ちほどケチだとはよく聞くしね。
さて、平日のシアター1010は、見事にたくさんの観客で埋め尽くされていた。
長年大地さんを応援されてきたであろう人から、ドラマが気に入り観にきた人もいたかもしれない。
中島ハルコが今回活躍する舞台は、豪華客船。
LEDパネルと大きな客船の船内をイメージする大がかりなセットが組まれていた。
そこから登場人物たちが次々とやってくる。
限られた空間の中で事件が起こる匂いがする。
煌びやかな船内では、マジックショーやチャリティーオークション、カジノなどが楽しめる。
ハルコの傍にはしっかりと大谷(合田雅史)と若杉(蕨野友也)がいて彼女をサポートしている。この二人はドラマシリーズのまま。
合田さんは「水戸黄門」シリーズで格さんを演じていた時代があるため、令和の水戸黄門という名に偽りなし……となっているのも面白い。
豪華客船には、ハルコの昔馴染みのあっちゃんこと三島昭宏(田山涼成)のほか、クセのある客が乗船している。
政治家の藤原(モロ師岡)とその妻・明菜(樹里咲穂)、金持ち実業家の城ケ崎(石井一孝)とその妻・鈴々花(敷村珠夕)。
マジシャンYUTAKA(渡辺大輔)とYUTAKAのアシスタント悦子(木村花代)。
そして船のオーナー三友陽子(浅田美代子)がハルコらを出迎える。
なんだかいろいろ理由ありで、あちらこちらできな臭く、
マジックショーで二人の男が忽然と姿を消したからさあ大変!
ハルコは客船の新人客室係の坂本未来(杉江大志)を専任バトラーにして、彼をいろいろ動かしながら事件の真相にたどりつくのである。
こうやってストーリーを振り返るだけでも、なんだか肩の力が抜けて、
面白いところではワハハと笑い、実際に目の前で繰り広げられるマジックにはしっかと驚きながら事件をハルコと一緒に追った。何度も言うが肩の力は抜けている。
舞台の上でも、カキーンと、ピカーンと決め台詞を言うハルコが神々しくて拍手喝采。
そして期待していた歌声もしつかりラストに楽しめた。
そこはもうそれ、大地真央 芸能生活50周年記念公演ですから抜かりなく。
これぞエンターテインメント! 美のカリスマここにあり! だったのである。
シャンシャンシャンと手拍子して、なんだか行きより元気になった気がする。
それが証拠に帰りのエレベーター。
11階から降りる際に途中で停まりドアが開く。待っていた青年が遠慮して乗らずにいる様子を見て、開閉ボタン近くに立っていた私は
「乗れる、乗れるよ!」みたいな声かけをして、青年をその機に乗せた。
この先もずっと混雑したエレベーターが続くのだから、「乗っちゃいなよ!」みたいなお節介をやいたわけだ。
そのテンションで声かけしたのは、もうあきらかにハルコイズムだったはず。
演劇にはいろいろな力がある。
一人のおばちゃんが最高のオバハンを気取れることだってあるのだ。
早めの時間に入った居酒屋でカキンカキンに冷えたジョッキで出てきたビールを
プハーーッと一気に飲んだのも、果てしなくオバハンだった。
おっと待った、最高のオバハン中島ハルコさんは、プハーッなんて飲まず、高級なシャンパンやワインを極上のお料理とともにたしなむ人だったっけ。
2023年9月2日(土)~9月10日(日)
シアター1010
名古屋公演/2023年9月13日(水)~20日(水)
御園座
福岡公演/2023年9月27日(水)~10月3日(火)
博多座
高松公演/2023年10月7日(土)~8日(日)
レクザムホール
大阪公演/2023年10月12日(木)~15日(日)
新歌舞伎座
長野公演/2023年10月19日(木)~20日(金)
長野市芸術館
盛岡公演/2023年10月25日(水)~26日(木)
トーサイクラシックホール岩手(岩手県民会館)大ホール
山形公演/2023年10月28日(土)~29日(日)
やまぎん県民ホール
脚本/西荻弓絵
演出/高橋正徳(文学座)
出演/大地真央、浅田美代子、田山涼成、合田雅史、蕨野友也、モロ師岡、石井一孝、樹里咲穂、木村花代、杉江大志、渡辺大輔 ほか