ドラマの中には暮らしや整理収納のヒントがあふれている。
あのテレビドラマのシーンから整理収納のプロが分析・解説する!?
ちょっとニッチなドラマレビュー。
小さなころからテレビドラマが大好きです。
妄想癖がある私は画面を見ながら自由自在に思いを巡らせていました。
整理収納アドバイザーになってからは
そのシーンや内容は「整理収納」とリンクしても楽しめるようになりました。
そんな私が毎回一つのドラマと整理収納をリンクして語ります。
私が今回整理収納とリンクしたドラマは仲野太賀さん主演の
「拾われた男」です。
このドラマの原作は俳優の松尾諭さんの自伝的エッセイ(注1)です。
私が松尾諭さんを最初にテレビで観たのは「SP 警視庁警備部警護課第四係」(注2)2という
激しめのアクションのあるドラマで、主演の岡田准一さん演じるスーパーカッコいい SP と
対照的(ごめんなさい)な体型の同僚役を演じていらっしゃいました。
ふくよかというかがっちりした安心感のある風貌とまっすぐな眼差しが印象的でした。
そんな松尾さんはその後も大河ドラマや朝ドラなど様々なドラマでお見掛けしましたが、
こんなに面白い半生を送ってこられた方とは知りませんでした。
主人公 松戸諭(仲野太賀)は学生時代に役者になるという夢を持ち、何のつてもなく上京します。
なかなか芽が出ない中、偶然航空券を拾います。その持ち主であるモデル事務所の社長に
「拾われ」芸能界へのきっかけをつかみます。その後も他人に「拾われ続ける」事によって夢も恋もつかむサクセスストーリーとなっているようです。
上京すると、諭は一足先にモデルになる夢を持って上京していた、幼馴染の杉田(大東俊介)の家で同居を始めます。
二人は実家がマンモス団地で、保育園から高校まで団地の中にあるような限られた環境で育
ったためか、そこから早く抜け出したいと思っていました。
特別な存在にあこがれての上京。
しかし、現実は厳しく、諭は気づいていない様子ですが、杉田の仕事はカットモデルどまりのようです。
そんな杉田の部屋で気になるのは 1 枚のポスター。
「バッファロー‘66」 監督・主演 ヴィンセント・ギャロのポスターです。
杉田の少し長めの髪はギャロのそれと被らなくもないですし、癖が強めでスタイリッシュな
スターへのあこがれが、この 1 コーナーに込められているようです。
諭にも「ギャロになったらええやん」などと言ったりします。
最初は諭の面倒を見ている体の杉田は諭がモデル事務所に拾われたことを知ると
「紹介してくれ!」と頼み込んだりするほど焦り始めます。
そして自分の限界を知り、彼女にも促されたのか、やがて家を出ていくことに。
杉田が出て言った後には、ゴミ袋に入ったたくさんの彼のモデル用の写真と
半分取れかかった「バッファロー‘66」のポスター。
夢がかなわず、心機一転、仕切りなおすことにした杉田は、スーツケース 1 つで、
ちょっと派手な彼女にはっぱをかけられながら歩きだします。
映画の中の情けないギャロが天使のようにやさしい女の子に元気づけられるように。
新たな暮らしに踏み出すために、杉田はまず「モノ」と「こと」を整理しました。
沢山のモノを手放し、家賃の高い家に住むこと、友達と住むこと、カットモデルをすることをやめました。
色々考えて整理した後に、たった一つのスーツケースに入れようと選んだものは何だったのか、
とても気なります。
でもきっと何もかも抱えたままでいるよりも、軽やかに生きてゆけそうです。
空っぽになった部屋は家賃 12 万もします。
これから先、どうなる事かと思っていた第 2 話。
映画監督を目指すバイト先の先輩が諭の部屋に転がり込んできます。
諭には好きな女の子ができたり、オーディションに落ちまくったりの日々が続きますが、
ある時、その先輩の知り合いから映画の仕事に「拾って」もらいます。
そこから少しずつ、諭の人生も動き出します。
部屋が空いたことで新たな出会いや縁が繋がり、物語が紡がれてゆきます。
「モノ」も「こと」も停滞していては何も産み出せないのかもしれません。
対照的に諭の実家は壁一面がモノであふれています。
諭の実家では節分でもないのに、頻繁に太巻きを食べる注3のですが、
そんな習慣を頑なに守り続けている家族たちも、実はそれぞれに変化を求めているのかもし
れません。
思い通りにいかない中で「願い事を考えながら」黙って太巻きを食べて飲み込んでみても
実は何も変わらない。
そのことにとうに気づいているけれど、動けない、動かない大人の哀愁も感じます。
さて、お仕事が動き出した諭ですが、恋の方はどうやら「恋に恋してる」感じです。
第 2 話の彼女には気持ちよく振られ、リセット完了です。
諭が今後どんな女の子に「拾われて」どんなホントの恋をするのか、
なぜか部屋に残されたギャロのポスターの行方を気にしながら
楽しみたいと思います。
注1:『拾われた男』(著・松尾諭 文芸春秋/2020)
注2:2007.11~フジテレビ系で放送
注3:諭の実家で太巻きを食す時は黙って願い事を考えながら。
諭の祖母が言うには太巻きは縁をつないで、願い事を叶えてくれるらしい。