誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、PARCO劇場で上演され、その後、全国各地での公演も続いている『海をゆく者』です。
ご一緒したのは、このコーナーもほぼレギュラー、連載「ひつじのまなざし」でお馴染み整理収納収納アドバイザーのみのわ香波さん。
昨年末、舞台がクリスマスの日の話なので、クリスマスの少し前に観て、後日感想を語り合いました。
※以下、作品のネタバレを含みます。
クリスマス・イヴ。リチャードとシャーキー兄弟が暮らす家に、友人のアイヴァン、ニッキーが集まって、酒とポーカーに興じる。ニッキーが連れて来たミスター・ロックハートと名乗る紳士は、彼らとは少し様子が違うが、ポーカーで勝負を挑んできた。ロックハートの目的とは? そして禁酒中だった弟シャーキーもその禁をやぶってしまい……。
まるで片付いていない部屋
舞台美術が気になり過ぎた
栗原 ドラマレビューでいつも美術面も細かくチェックしているみのわさん的には、この『海をゆく者』の舞台美術は相当気になったのでは?
みのわ 劇場ロビーには舞台美術の模型がありましたけど、実際はもっといろいろ細かくて、もう部屋の中が気になりすぎましたし、全然見きれなかった。上手のイスにアイヴァン(浅野和之さん)が座って、ピスタチオの殻を投げながらずーっと食べてましたし、イギリスが舞台だから基本的に土足だとはいえ、床になんでも放り投げすぎていました(笑)。
栗原 本は片付けてもすぐにバサーッと崩れるし。
みのわ 部屋の中を片づけるのはシャーキー(平田満さん)だけでしたけど、そのシャーキーも蹴飛ばした袋はそのままにしておくのねと思ったり。
栗原 整理収納アドバイザーやヘルパーさんなどプロが見たら、目の不自由なリチャード(高橋克実さん)が暮らす部屋なのにこれじゃあ危ないでしょう……と現実的なことをつい思っちゃいそう。
みのわ 靴が上手の手前に並んでいましたけど、靴は履くためのものだけじゃなくてお酒を隠すためにも使えるのね。
栗原 下手には洋服がごちゃっと置いてありました。舞台上にはあの一部屋があるだけなのに、その奥のキッチンとか別の部屋も想像できるようなできないような……。
クリスマス・イヴのお話でした。誰のどんなシーンが印象的でしたか?
おじさんたちがはしゃげばはしゃぐほど、
対局にある寂しさみたいなものが見えた
みのわ 克実さんはじめ、飲んだくれたちのキャラクター、濃かったですね。その中でロックハート(小日向文世さん)だけが、身なりもきちっとして、オールバックで髪も整えて、一人だけその場にそぐわない。お酒も弱いのか、好きじゃないのか、え、でも悪魔なのに? なんて思って。
栗原 確かに真実はどこにあるの? と思わせる存在でした。
みのわ 彼が発している言葉が比喩なのか、本当なのか、ファンタジーなのか。
栗原 パンフレットの作家による作品解説を読むと、作者が子どもの頃聞いたアイルランド民話に出てくる妖精の話や、宗教的な言い伝えが根っこにあるらしいですよ。
みのわ なるほど……。その背景があったうえで、人間社会の中で世間からちょっとはじかれちゃったおじさんたちの哀愁みたいなものが前面に出ていたわけですね。
初めと終わりに寒村をイメージさせる波の音が聞こえて、おじさんたちがはしゃげばはしゃぐほど、対局にある寂しさみたいなものが見えた気がしました。
栗原 街自体が寂れている雰囲気も伝わってきましたよね。
みのわ 家の中で気になるものといえば、やけに大きなクリスマスツリー。敬虔なクリスチャンだということは、台詞の中からもわかりましたけど、このおじさんたちが毎年このツリーをちゃんと飾っているの? というのが気になって気になって。クリスマスは大事な行事なんですね。
栗原 日本のイベント化しているクリスマスとは捉え方が違うんでしょうね。たしかに、あんなに酔っ払っているのに翌朝はミサに行くというし。
みのわ あんなに大酒飲んでいるのに、クリスマスのごちそうを食べる? と気づかったり。兄弟の関係性も不思議というか気になりました。
シャーキーの元の彼女は、友だちのニッキー(大谷亮介さん)の奥さん。で、そのいきさつを知っているのに友だちがニッキーを家に呼んじゃうとか、ありえない。
栗原 いろいろ関係が密すぎる(笑)。
みのわ それぞれの関係が見えてきた中で、浅野さん演じるアイヴァンの立ち位置ってなんとなく謎で。でもまさかのそのアイヴァンが最後に……。
(ここは大きくネタバレになるので自粛します)
彼らの1日をただただ観察しているような
のぞき見しているような感覚
栗原 登場人物は男5人だけ。4人は地元が一緒で長年の友人。気のおけない関係というのを、皆さんがとても楽しそうに演じていましたよね。克実さんは今回からの参加だけれど、さすがの再々演という感じでした。
みのわ なんだか部室みたいで、暗黙の了解で奥さんたちはあの空間には立ち入らないんだろうなっていう想像もしました。
栗原 たしかに。そんな絆の深いおじさんたちの中に、一人ロックハートが連れられて来て、一緒に酒飲んで、ポーカーをやるんですよね。普通、「お前、何勝手に知らない奴連れてきてるんだよ」みたいになりそうなものですけど、それも仲間であるニッキーが連れてきたんだからという信用みたいなのがあるってことだったのかな?
みのわ 一緒にカードやってお酒飲めば皆仲間。ロックハートはやはり、人の心にスッと入り込むという不思議な存在感でしたね。小日向さんにぴったりでした。それぞれがそのままあの空間にいるという感じだったから、もうこちらは彼らの1日をただただのぞき見しているような感覚でした。だから演劇を観ているというよりは、5人を観察しているような気分でした。
栗原 私たちが座った席が、少し後方だったから、より傍から見ている感がありました。
彼らにとって必要なのはモノじゃなく
場と人なのかも
みのわ 私たちは普段、モノと人の関係をよく見るけれど、この作品の登場人物たちにとっては、究極、モノは重要ではないんだろうなと思いました。モノの存在はあってないようなものなのかなと。
栗原 彼らにとって必要なのは場と人なのかも。リチャードとシャーキーの兄弟の間に確かにあるあの絆というか、正直、リチャードは最後いいとこ持って行くし「ずっちーな」って思っちゃった。
私、2009年に初演を観ているんですけど、その時は正直言うと、観終わった時に「おじさんたちしょーもなっ」みたいに思っちゃったの。毎日会社に通勤して真面目に働いていた頃だったし、単純に若かったし。
それが今回観たら、まさか泣けちゃうとは……。
みのわ 名作が再演、再々演されるというのは大事ですね。またやって欲しいなぁ。
栗原 でも、皆さんほぼ古希を迎える年齢ということで、次はないだろうっておっしゃってましたけど。でも気になる役者さんばかりですから、その他の出演作もまたチェックしていきたいですね。2024年もまた、たくさん観劇をご一緒しましょう。
<東京公演>2023年12月7日(木)~12月27日(水)
PARCO劇場
<新潟公演>2024年1月7日(日)
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
<豊橋公演>2024年1月12日(金)~2024年1月14日(日)
穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
<岡山公演>2024年1月17日(水)
岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
<福岡公演>2024年1月20日(土)~1月21日(日)
キャナルシティ劇場
<広島公演>2024年1月24日(水)
JMS アステールプラザ 大ホール
<大阪公演>2024年1月27日(土)~1月29日(月)
サンケイホールブリーゼ
作/コナー・マクファーソン
訳/小田島恒志
演出/栗山民也
出演/小日向文世、高橋克実、浅野和之、大谷亮介、平田満