誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。
今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、鹿児島の整理収納アドバイザー、フタリノデザインオフィス 代表の遠矢菜織さん。味の再現チャレンジを続けてきたというお正月に欠かせないあの一品についてうかがいました。
-- 菜織さんにとっての忘れられない味、ぜひ教えてください。
遠矢 「なます」です! 忘れられない理由は、再現できない味だからなんです。なますと言えばおせち料理の定番ですよね。わが家でもその時季になると母が大量に作っていました。
正直に言うと、私はもともとあまり酢が好きではないので、子どもの頃はなますを好んで食べてはいませんでした。でも味覚ってだんだん変わるので、大人になってからは母の作るなますが美味しいなと思って食べるようになりました。
私よりも母のなますが好きだったのが、娘です。お正月前には「おばあちゃんちのなます」を大量にもらってきて、おいしいおいしいと食べていましたね。
-- お孫さんが喜んで食べてくれるの、お母様は嬉しかったでしょうね。……ということは、その味を菜織さんが継承すべく……?
遠矢 いや、それがそもそも酢があまり得意ではなかったことや、母が作るものは私は作らなくていいかな、という考えで味を継ぐとか、作り方を聞くという機会はなかったんです。
母が亡くなったのはある年の1月10日でした。その年は年末からお正月にかけて具合が悪かったこともあり、聞く余裕もなかった。正直なところもうレシピを教えてもらうことが出来ないかもしれないから、作り方やコツを聞いてみたかったのですが、なにか暗示してしまうようで、母に悟られたくもなかったので、あえて聞くことはしませんでした。
そういうわけで、母が作るなますの味(レシピ)は知らないまま今に至ります。
その後、しばらくはお正月になますを作る気になれませんでした。娘にせがまれて作ってみたりもしたけど、母のあの味にならないんです。なんか違う、だったら買ってきて食べよう、そんな感じでそのままにしていたんです。
-- お正月の度に「あぁ、あのなますの作り方、聞いておけばよかった」と思い出しますね。
遠矢 友だちのお母さんが料理教室をしていたので、作り方を教わりに行ったこともありました。その年代の人が作ってくれるものだから近い味になるのではないかと思って。でもやっぱり全然違うんですよね。それもきっかけになって、母が亡くなってから3年くらい経った頃からでしょうか、また作り始めて、毎年あの味を再現するべくチャレンジしているんです。母が亡くなってからはもうすぐ10年になります。
-- 遠矢家のなますチャレンジ、気になります。
遠矢 味のジャッジをするのは娘です。彼女は味覚に敏感なので、その部分で頼りにしています。まだ合格は出ていなくて、いまだに味見をすると微妙な顔をされています(笑)。
母が作っていたなますは、本当にシンプル。大根と人参に酢、砂糖、少しお醤油も入っているのかな。基本の作り方は、料理教室でも教えてもらった手順で、調味料は母が使っていたものと同じものに変えてみたりもしました。砂糖は三温糖、酢は福山酢。母と一緒に料理を作るということは少なかったですが、実家で使っている調味料は一通り把握していましたから同じものは用意できるんです。でも、やっぱり同じ味にはならないんですよね。
母のなますは、うっすらと茶色みがかっていて、私が作るよりもパンチが効いた味でした。酢がきっと強いのだと思うんです。
-- 一度に作る量の違いなどでも塩梅が変わってきそうですね。
遠矢 まさにその塩梅ですね。実家は当時、お客様も多かったので一番大きいサイズの保存容器で作っていたはず。切り方も関係あるかもと思い、スライサーも実家のものを持ってきて使ってみたり、人参を普通のものから京人参に変えたり、いろいろ試してもみましたが、やっぱり母の味にはならない。
そんなわけで最近はもう、「私のなますはコレだから!」ということにしつつ、娘と一緒に静かになますチャレンジを毎年の楽しみとして続けています。
-- お母様はどんな方でしたか?
遠矢 母は学校の保健室の先生で、厳しくもあり、優しくもありました。生徒さんの中にも、母にすごく優しくしてもらったという方と、先生はすごく怖かったという方たちもいて。おそらくダメなものはダメだとしっかり叱るタイプの先生だったのだと思います。
私自身はすごく叱られた……みたいなことはなかったけど、学校の決まり事、ルールを守ることについてはとても厳しかったですね。
わが家はペンションをしていた時期があったので、母の教師仲間が集まって宴会なんてこともよくありました。そういう場で大人にも表の顔と裏の顔があるみたいなことを早めに!? 知ったりもしたので(笑)、物怖じしない性格はそこで身に着けたように思います。
-- 宴会でお母様のなますを酒の肴に…なんてこともあったのかな。おせちといえば、毎年SNSで拝見する菜織さんのおせちが美しくて、出来るなら注文したい! と本気で思っていた一人です。こだわりを教えてください。
遠矢 本来、私の性格からしたら、おせちは買えばいいのでは? というタイプです。でも幼い時から母が全部手作りしているのを見ていました。何日も前から買い出しを始めて、正月の朝早くから支度を手伝うのが当たり前でしたから、身に染みついているみたいです。
わが家では長い間、重箱に入れるいわゆる全部入れたおせちを作っていましたが、最近は食べたいもの、好きなものだけを作るようになりました。

-- 必ず入れるもの(作るもの)は何ですか?
遠矢 ブリの照り焼き、なます、海老、そして煮物でしょうか。海老は焼いたり、酒蒸しにしたりします。もう一つ、これはお正月料理というわけではないけれど、カブをくり抜いて、その中にカニ爪を入れたスープというか煮物。カブは比較的材料が手に入りやすくて見栄えがするので、わが家の定番になっています。豆は黒豆ではなく、白豆(白花豆)を煮ます。
料理を作る以上に好きなのが、食器を並べている時です。コーディネートを考えながら飾り付けている時が一番楽しいですね。

-- テーブルコーディネートで大事にしていること、コツなどはありますか?
遠矢 器が一式揃ってなくてもいいと思ってます。例えば小鉢をいくつか並べる時、人によって種類が違ってもいいですよね。全体的にパッと見て美しければいいなと思って、あまり細かいルールにはこだわりません。まずはお皿を並べるところがスタートです。並べてみて、ちょっと引いて見て、よし! と確認していきます。料理を盛る量によっても見え方が変わってくるので、都度確認です。

数年前まで使っていた大きなお重は、娘の運動会の日のお弁当など、たくさん活用したお重でしたが、子どもの成長に合わせて大きなお重からは卒業しました。そして、小さなお重を購入しました(笑)。
今は、人が集まって会食するとしたら、お正月に弟家族を含めて最大7人。そういう時は、わが家の食器をフル活用します。ゲストが来ないと使われることがないという食器はわが家には存在しませんし、一回も使っていない食器はわが家の食器棚にはありません。それはもう自信を持って普段からお伝えしています。
-- 大切なことなので、太字にしておきました! 各家庭で味に個性が出るおせち料理。娘さんがおばあちゃまのなますの味を引き継ぐことがあるかもしれませんね! 素敵な記憶と味のお話をありがとうございました。
イラスト/Miho Nagai
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遠矢菜織(Saori Tooya

