三階席から歌舞伎・愛 PR

背負っていく強さを感じた_猿若祭二月大歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

二月の歌舞伎座は「猿若祭二月大歌舞伎」でした。今年は十八世中村勘三郎十三回忌追善の興行です。
どれも素晴らしい演目でしたが、ご紹介するのはこの三つ。

昼の部の「三、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」
慣れない花街にやって来た絹商人の佐野次郎左衛門(中村勘九郎)は、吉原の美しき傾城、八ッ橋に魅せられ足繁く通うようになります。
痘痕面の次郎左衛門に扮した勘三郎さんの写真は、これまでもよく見かけることがありました。勘九郎さんで拝見するのは初めてです。
佇まいがお父様そっくりでした。

勘三郎さんと組んで八ッ橋を演じてきたのが玉三郎さん。近年、その玉三郎さんがしていた大きな役の数々を中村七之助さんが演じていますが、今作もその美しき傾城を七之助さんが担います。
その傾城の登場シーンが見事でした。花魁道中ではじめに七越(中村芝のぶ)、次に九重(中村児太郎)がゆっくり歩いてきて、最後に出てくるのが七之助さん演じる八ッ橋。
もう観客の待ち構えている感がすごいんです。
この興行は勘三郎さんの追善興行、私が観た日が千穐楽前日の日曜日だったこともあり、とにかく会場の盛り上がりというか、熱気がすごかった。
「割れんばかりの拍手」という表現がありますが、その通りでした。

八ッ橋に次郎左衛門は、ゾッコン。他所には目もくれず金払いもよく、いわゆる太客です。
しかし、八ッ橋には間夫の繁山栄之丞がいます。演じるのは片岡仁左衛門さんです。ヒュー!
悪い男をやらせたら、そりゃあもう仁左衛門さんです。
惚れた弱みの八ッ橋は、次郎左衛門に愛想尽かしをするよう迫られます。
「あんたなんて好きでもなんでもないのよ、フンッ!!」とやれということです。
でも次郎左衛門はよくしてくれた上客だからそんなことはできないと拒むのですが、それでも間夫に言われてしまえば仕方のないこと。

見せ所は三幕目の縁切りの場です。
次郎左衛門は八ッ橋を身請けしたいとまで思っていたのに、散々な言葉と態度で愛想を尽かされます。
八ッ橋がとどめを刺すような勢いで縁切りの言葉を口にした時、あまりの迫力に圧倒されて客席がシーンと静まり返りました。

数ヶ月後、座敷で再会する次郎左衛門と八ッ橋。先の不義理は水に流したように思えたところ、二人きりになったところで、次郎左衛門は八ッ橋を斬り捨てます。
使うのはこのお芝居のタイトル「籠釣瓶」。籠釣瓶は刀の名です。
この刀は抜かなければ守ってくれるものだけれど、抜いてしまうと妖刀となるのです。
それまで比較的かん高い声だった次郎左衛門が、八ッ橋を手にかけ「籠釣瓶はよく斬れる」というところでは低くすごみのある声に変わっていました。
勘九郎さんが勘三郎さんに見える瞬間がところどころあったような気がします。

もう一つご紹介したいのは、夜の部「一、猿若江戸の初櫓」です。
田中傳左衛門さんの作調で鼓の演奏もされていました。
中村屋の皆さんがずらりと出演されますが、出雲の阿国(中村七之助)と共にいるのは猿若を演じる中村勘太郎さん。
最初に盛り上がったのは、福富屋の万兵衛(中村芝翫)と女房のふく(中村福助)。ご兄弟の二人ですが、この演目では福助さんが歩いて舞台に登場したのです。
ご病気をされた後、麻痺が残るも舞台復帰されこれまでも出演がありましたが、座った状態でほとんど動きのない形が多かったので、歩いている姿に拍手喝采でした。

猿若一行が舞を披露するシーンは、やはり華やかでした。
坂東亀蔵さん、中村萬太郎さん、中村種之助さん、中村児太郎さん、中村橋之助さん。
活躍する歌舞伎役者がそろうなか、阿国演じる七之助さんとともに、中央で踊る勘太郎さんを見て、「あぁ、まだ年若いけれど、主役を張るなのだなぁ。未来の中村屋を、これからの歌舞伎を背負っていく立場にある人なんだなぁ」と純粋に、ただただ純粋に感じ入ったのでした。

最後にご紹介するのは「三、連獅子」です。
お囃子の方達が身に着けている裃は中村屋の薄黄色。私が好きな鼓の傳左衛門さまも、「猿若江戸の初櫓」に続き、「連獅子」でもこの裃を身に着け演奏されていました。
親獅子の精を中村勘九郎さん、仔獅子の精を次男で若干十歳の中村長三郎さんが演じました。
連獅子といえば、どっしり構えた親獅子、荒ぶる仔獅子の毛振りが見せ場ですが、親獅子を演じる勘九郎さんがまだまだパワフルですから、そのバランスがどうというのはあるかもしれません。
しかし仔獅子を谷に突き落とす印象的な場面など、長三郎さんの動きもとてもよかったです。
いやぁ、中村屋はスパルタだなぁ、などとも正直思いましたが、本物の親子が演じる連獅子はやはり感慨深いものがあります。

場内の拍手は当然のことながらものすごかったのですが、三階席だからこそ見れる景色としては、一階席のお客様の手の叩き方です。端から端まで、皆さん手の平を顔の前で大きく叩きます。前から2~3列目の方などは、座ってはいますが気持ち的にはスタンディングオベーション状態。
拍手の音も下から横から、反響して上からも聞こえるほどで、熱狂度が素晴らしかったです。

伝統をつなぐ中村屋の強さ、それを支える中村屋のファンの一体感を感じることが出来た猿若祭でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事
猿若祭二月大歌舞伎」昼の部 公演レポート、舞台写真掲載 」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。