理由あって週イチ義母宅 PR

オレンジの甘いかほりと

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理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。

90歳になってからはじめての義母宅デイ。
1週空いたりすると、ひょっとして私のこと覚えていないかも!? と実はドキドキする。

2日前に窓を開けたら、金木犀の香りがした。
一度認知すると、そこから先は行く先々で金木犀の香りに気づく。
SNSにも昨日あたりから季節の花だよりがあちらこちらで見かけられた。

異常気象で、季節感なんてどんどん薄らいで、コロナだし、マスクもしてるし、
もう花の香りなんて感じられないんじゃないか、
こんな異常なことが次々と起こるなら金木犀の香りだって、「あれ、今年はちょっと香りが違うんじゃない!?」なんてことがあっても不思議じゃないんじゃないかと思う。
実際にはあるのかな、もしかして。

でも、私レベルだと、今年の金木犀もよきかほりだ。

2週間ぶりの義母宅に到着すると、庭からふわ~っと、金木犀のあまいよきかほりがした。
「わー、金木犀がいい香りだねー。たくさん咲いているね」
開口一番そういうと、義母は「あー、そうだね」と言った。
あまりピンと来ていないような反応だ。
90歳、目もいい、耳もいい、内臓も丈夫。でもそもそもあまり「いい香り」のような嗅覚に関することは口に出すことが少ない人だったかもしれない。

……いやいや、違う。
忘れもしない、義母が大腿骨転子部骨折で入院していた時だ。
病院の食事が口に合わなかったのか、薬のせいだったのか、
慣れない入院生活で認知症のような症状が出始めていたからなのか、
とにかくあまり食事を摂らないと聞いていた。
だから、好きなものがあればちょっとつまめるようなお菓子などを差し入れて、
冷蔵庫に入れておいてもらえれば……と要請があったほどだった。

そんな中、寒い季節だったから、病院の近くのスーパーで焼き芋を買って持っていったことがあった。
病室に入るなり、鼻をくんくんとして「わぁーいい匂い」みたいな感じで、
私たちが焼き芋を出す前にその存在に気づいたのは、まぎれもなく義母だった。

いろいろ整理すると、つまり花の香りにはそもそも興味がないということかもしれない。
それが証拠に、義兄から90歳の祝いにもらったブリザーブドフラワーは、どうにもこうにも目につかない、もともと仏壇が置いてあった場所に置かれていた。
大事なものは仏壇にというのは、理屈があっているが、これじゃあ、まったく目に入らない。
すでにそれをもらったこと、その花の存在も忘れてしまっていることもわかった上で、
「せっかくもらったこのキレイなお花、目につくところに置いておこうよ。
ここに置けば、ヘルパーさんも見れるから、明るい気持ちになるよね」

提案という体をとった独断で、その花は玄関近くに置いた。
「そうだね、そういうのはやっぱり女性じゃないと気が回らないね」と義母。
見えないところに置いたのは自分ではないということになり、
気が利かないのは息子たち、みたいな図式になっている!? まあ、仕方ないか。

庭からまた金木犀が香った。
その甘い香りを浴びながら、さて、このプリザーブドフラワーは来週このままここにあるかしら? とふと考え、もう一度大きく甘い香りを吸い込んだ。