日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
とあるビルのエレベーターに乗った。目的の階は8階。
私たちのほかにもう一組、若い女性の2人組がそのエレベーターに乗り込んだ。
20歳前後だろうか。
その2人組も降りる階は8階だった。
各階に入っているテナントの名前を見ながら、
「韓国料理だって、食べたくない?」
「いいね、韓国料理。でもお腹いっぱいで無理」
「ほんと、無理」
そんなたわいもない会話が可愛らしかった。
エレベーターが8階に着くと、私はドア横の開ボタンを押した。
もちろん「どうぞお先に」という意味で。
普通、このシチュエーションだったら、どうするだろうか?
A.軽く会釈しながら降りる
B.ありがとうございますといいながら降りる
C.何も言わずに降りる
正解はA~Cのどれでもなかった。
2人のうちの一人の女性が、「どうぞどうぞ」と私たちに先に降りるよう促したのだ。
「ええ?いやいや、どうぞ」と私。
すると「私たち後から乗ったので先にどうぞ」と笑顔で言ったのだ。
ビジネスマナーみたいなものならまた別のルールがあるだろうけれど、
彼女がそう言ってくれたのには理由がある。
8階に降りたらまず受付が必要なのだ。先に降りると自分たちが先に受付するような流れになってしまうから、だからお先にどうぞと譲ってくれたのだった。
「えー、ありがとう。なんか嬉しい~」とおばちゃんっぽくはしゃぎながら
彼女たちの好意を素直に受けて、エレベーターを先に降りた。
ちゃんとしてる! なんてちゃんとしているのかしら!!
どうぞどうぞとただ譲りあっていては、ダチョウ俱楽部のコントみたいになるだけだけれど、
彼女はちゃんと言葉で伝えてくれたのだ。
それがただただ嬉しかった。
その後、トイレから戻る私はトイレに向かう彼女とすれ違いざま
微笑みのアイコンタクトを交わした。
「お腹いっぱいじゃなかったら、下の階の韓国料理奢るのに。そしたら好きなだけトッポキ食べていいよ」
とはもちろん言わなかったが、気持ちの上ではご馳走していた。なんじゃそりゃ。
自宅の小さな花壇に植えていたパンジーがたくさん花を咲かせていた。
1か月前に撮った写真を見たら、倍くらいに増えていて、賑やかだ。
その賑やかで華やかで可愛らしい感じが、エレベーターで会った彼女たちの笑顔みたいで
また嬉しくなった。