私のアンフォゲ飯 PR

もう一人の母が教えつないでくれた中華風そぼろセロリごはん

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、野菜ジャーナリストとして全国の畑をめぐり、生産者への取材やイベント企画等を通じて野菜や果物の魅力を発信している篠原久仁子さん。ご縁を大切に受け継いだ味についてお話をうかがいました。

-- 食に携わっている方にお話をうかがう時はいろいろ想像してしまうのですが、ずばり、篠原さんの忘れられない味はなんですか?
篠原 忘れられない味、たくさんありすぎて迷ったんですが、この取材のことを夫に話したら「久仁ちゃんのアンフォゲ飯はあれ一択でしょ!」と言ってくれたメニューがあるんです。その名は「中華風そぼろセロリごはん」。これは私にとって第二の母、野菜の世界の母である今は亡き、上原恭子さんから教えていただいたメニューです。
上原さんとは私が野菜ソムリエの試験を受けるタイミングで、その世界の大先輩として出会いました。自分の母ほど歳が離れていた方でしたが、初めて上原さんのお話を聞いた時に、「私はこの人について行く!」と決めたんです。上原さんは野菜ソムリエ界、特に東京の野菜に関わる人でその名を知らない人はいないという存在でした。それは農業界においても同様です。
上原さんはクッキングインストラクターの肩書で、ご自身のレシピを何千種類もお持ちでした。食に造詣が深く、料理界の各分野のプロフェッショナルとのつながりが深いまさに野菜・果物のプロ。私は上原さんから、野菜のこと、仕事に向き合う姿勢などさまざまなことを学びました。

-- まずは忘れられない出会いから始まるのですね。篠原さんが上原さんと出会ったのはいつ頃のことですか?
篠原 
私が野菜ソムリエを目指した年なので、今から15年以上前のことになります。なぜ私が上原さんについて行く! と思ったかといえば、野菜への愛にほかなりません。それまでメディアで働いてきて、たくさんのプロフェッショナルに会ってきましたが、上原さんのお話の切り口、内容、すべてにおいて品格と教養がオーラとして出ていました。常人ではないと感じたし、長年積み重ねてきたもの、背景に計り知れないものを持った方だとビリビリ来てしまったんです。

-- 上原さんとは具体的にどのような関係、交流を築かれたのですか?
篠原 
全国の野菜の産地を一緒に巡りました。泊りがけもありましたし、海外もご一緒しました。実家の母よりも共に過ごした時間が長かった年もありました。当時一人暮らししていた家が上原さん宅と近かったこともあり、本当に娘のように可愛がってもらったんです。夕飯をお裾分けしていただくことも度々ありました。不思議なことに、上原さんが作る味が、母の味に似ていて、完全に胃袋を掴まれてしまった関係とも言えそうです(笑)。

-- そのうちの一つが中華風そぼろセロリごはん、ということですね。本当に初めて聞いたメニュー名でした。
篠原 そのメニューは上原さんが長年、ご自身の十八番料理として作られていた料理です。私は今でこそ野菜ジャーナリストを名乗っていますが、幼い頃は野菜が苦手で、ジャガイモしか食べられない子どもでした。そこから年齢を重ねて、少しずつ野菜を食べるようになり、祖母との暮らしで野菜と接するようになったことをきっかけに29歳で野菜ソムリエの資格を取得しました。そんな私が最後まで食べられなかった野菜が、実はセロリなんです。香りが苦手でした。

-- お仕事柄、苦手な野菜とも出会うことになりますよね。
篠原 きっかけは上原さんが関わっていた江戸東京野菜と呼ばれる伝統野菜でした。これを推進する活動をされている大竹道茂先生のブログ「江戸東京野菜通信」に、昔ながらの種を受け継ぐ伝説のセロリが紹介されていたんです。そのセロリを作り続けている人が東京・清瀬市にいると知り、どうしても会いたいと取材させていただくことになりました。私がセロリを食べれないことは内緒で……。でも食べれないから知りたいという衝動が抑えられなかったんです。取材には上原さんにもご一緒いただき、2016年の春、東京・清瀬市の「なみき農園」の並木さんに会いに行きました。

「なみき農園」のセルリー(こちらの農園ではセルリーという名称)を食べた時の衝撃は忘れません。その場で生で食べた瞬間、大袈裟ではなく高原の風が吹いたんです。洗練された気持ちのいい香りが口の中に広がり、幸せな気持ちに包まれました。それから幾度となく上原さんと「なみき農園」に通い、2年後には並木さんのセルリーを使ったレストランイベントを開催することが出来ました。
(なみき農園の伝説のセルリーに関する篠原さんの記事は文末でご紹介しています)

-- セロリの美味しさに目覚めた篠原さん、いよいよ上原さんの十八番料理についてくわしく教えてください。
篠原 セロリはフレッシュな状態でサラダで食べるのが美味しいですが、ほかの美味しい食べ方はないだろうか? と上原さんに相談しました。そこで教えてもらったのが、上原家で長年作られている家庭の味「中華風そぼろセロリごはん」だったんです。ごはんの上に生のセロリをたーっぷり、その上に上原さん特製の中華風そぼろを乗せたもので、イメージとしては沖縄の「タコライス」のような組み合わせです。

-- 生のセロリは茎の部分と葉の部分を両方使うんですか?
篠原 両方です。でもどちらかといえば葉がメインですね。先ほどお話した「なみき農園」さんのセルリーは葉の部分も最高に美味しいんです。レシピを教えてもらい初めて作ったのが、並木さんのセルリーとお裾分けしていただいた上原さんの中華風そぼろの組み合わせ。今、考えてもかなりぜいたくな出会いでした。以来、春、桜の頃の約2週間しか収穫できない「なみき農園」の貴重なセルリーで作るこの「中華風そぼろセロリごはん」がわが家の春の定番ごちそうになっています。

-- 実はまだ少し味のイメージがついていません。セロリってだいぶインパクトがあるし、そぼろはどんな味なんでしょう?
篠原 白ゴマや大葉、刻んだ黒オリーブも使います。あれは唯一無二の味ですね。そぼろはコチュジャンなどが入った甘ピリ辛の中華風。具はホカホカごはんの上に乗せるので、さわやかな香りがふわっと届きます。それをスプーンでご飯と具をよく混ぜ合わせながらいただくのが最高なんです。
夫も結婚以来、毎春これを一緒に食べていますが、「セロリで何食べたい?」と聞くと、決まって「中華そぼろセロリごはん」をリクエストしてくれます。
上原さんが残してくれたおふくろの味。食べると私と上原さんとのあれこれ、並木さんを訪ねた時のこと、長年セロリが食べれなかったのが克服できたという思い出もよみがえります。食べた時の味を説明するとしたら、「これだよ、これ。セロリってこうやって食べて欲しかったんだよねー」そんな風にセロリの気持ちになった感覚になるんです。セロリが喜んでいる……なんて、セロリ歴の短い私が毎回本気で思う味です!

-- お話を聞いているだけでさわやかな香りを感じました。野菜ジャーナリストとして活躍してきた篠原さん、近年、ライフステージにも変化がありましたよね。
篠原 2020年に結婚、出産を経験しました。コロナ禍で取材も行けなくなった時期だったし、産休育休でブランクができたら私の仕事はもう成り立たないかも……と考えることもありました。でもこの育休中に上原さんがこの世を去られたので、改めて「あなたわかってるわね。私、さんざんあなたにバトンを渡したわよね!」そんな風に言われた気がしたんです。これまでも、例えば野菜の仕事をしているけど私にはレシピは作れないということに悩み、弱音を吐くことがありました。すると「久仁ちゃんにしか出来ない仕事がある。生産者さんから話を引き出すという、あなたが出来る最大のことをすればいいの、レシピなんてやらなくていいの!」そんな風に私にはっぱをかけてくれたのが上原さんでした。
そうした言葉があったから、続けていくんだなと思えたし、実際に今、子育てをしながらお仕事もさせていただいています。

-- 今ごろ、そうよ、だから言ったでしょ……とあちらの方で大きくうなずいてらっしゃるかな。
篠原 
忘れられない味についてあれこれ考えていた時に、夫の口から「中華風そぼろセロリごはん」のことが出てきたのも、もしかしたら上原さんのパワーが降りてきてたのかも!?
忘れられない味だし、私が野菜に関わっていく上で忘れちゃいけない味でもありますね。くじけそうになったら思い出して、自分の中心に戻れる味でもある。今、話をしていて確信出来た気がします。

-- 「私のアンフォゲ飯」をスタートして割と早い段階で、篠原さんにインタビューしたいと思っていたので念願叶いました。
篠原 
私が野菜の仕事をはじめたきっかけ、原点はおばあちゃんの自給的農家の暮らしを受け継ぎたいというところからでした。野菜ジャーナリストという肩書ですが、小難しい情報を言いたいのではなく、記事をきっかけに地元の味や名産、好きな味を思うきっかけになればいいな、そんな思いを持って日本全国の野菜や果物の取材をしてきたので、アンフォゲ飯にもとってもシンパシーを感じます。
食は出会いなので、今、野菜が嫌いな人でもあきらめないで欲しいなって思います。自分が美味しいって思う味に出会えば、好き嫌いも変わりますし、たまたま今日食べた味が好みじゃなかったんだと考えて、出会いを楽しんで欲しいなと思います。

-- 今、お子さんが野菜嫌いで悩んでいる親御さんにも嬉しいメッセージですね。篠原さんが発信する野菜や果物のこと、これからも注目していきます。ありがとうございました! あ、春にぜひ「中華風そぼろセロリごはん」食べたいです!!

イラスト/Miho Nagai

篠原 久仁子(Kuniko Shinohara)さん

野菜ジャーナリスト。大学卒業後、大手番組制作会社で、報道・ドキュメンタリー番組の企画・演出を手がける。「野菜ソムリエプロ」資格取得後の2009年、人と地域を野菜果物にまつわる情報でつなぐ日本初の「野菜ジャーナリスト」として独立。徹底した現場主義で全国の農産物や流通業界を幅広く取材し、メディア出演、執筆、講演などを通して「美味しい」情報発信をしている。
「野菜の便利帳~伝統野菜・全国名物マップ」執筆。
東京を軸に、野菜に魅せられるきっかけとなった信州の古民家でも執筆や畑しごとをするデュアルライフを送っている。息子さんと一緒の【子連れベジ旅】も人気。
公式サイト https://shinoharakuniko.com/

 

野菜ジャーナリスト篠原久仁子さんの
webマガジン 畑からの伝言帖より
「なみき農園」さんに関する記事はコチラ


 

 

 






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