三階席から歌舞伎・愛 PR

四月大歌舞伎_共演歴54年のゴールデンコンビのすばらしさ

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

四月大歌舞伎は第三部も観ました。「ぢいさんばあさん」が素晴らしかったのでご紹介させてください。
演じるのは美濃部伊織を片岡仁左衛門さん、その妻・るんを坂東玉三郎さんのゴールデンコンビが演じます。

実はこの観劇日、第一部と第三部を観たのですが、その間の時間で歌舞伎座からすぐの東劇という映画館で上映中のシネマ歌舞伎「桜姫東文章」を観ました。
桜姫を玉三郎さん、桜姫に恋い焦がれる清玄、桜姫と後に夫婦となる釣鐘権助を仁左衛門さんが演じています。

このシネマ歌舞伎の冒頭にはお二人のインタビューが入っているのですが、
二人が共演する「桜姫東文章」の上演は36年ぶりだったそうで、それもすごいのですが
「初めて一緒にお芝居してから54年になります」としみじみ語っていたのがとても印象的でした。
普通の夫婦で言ったら金婚式も終えた夫婦みたいなものということですから。

そんなお二人が演じる「ぢいさんばあさん」という演目は夫婦愛を描いた作品です。
美濃部伊織(片岡仁左衛門)は34歳、妻のるん(坂東玉三郎)は29歳、評判のおしどり夫婦です。
しかし、京都二条城でのお勤めが決まっていたるんの弟、宮重久右衛門(中村隼人)が
喧嘩をして負傷してしまったため、義兄である伊織が代わりに京都へ赴くことになりました。
一年とはいえ、結婚3年目、子どもも生まれたばかりの仲の良い夫婦は、離れ離れになってしまいます。
庭には結婚した年に植えた桜が咲いています。

単身赴任は一年で終わるはずでしたが、伊織は京都の料亭でかねてからあまりたちの良くない下嶋甚右衛門(中村歌六)を、京都で手に入れた刀で斬り、殺めてしまいます。
正直なことを言うと、この伊織が殺めてしまう経緯がちょっと納得がいきません。
甚右衛門は嫌味で評判もよろしくない男(そのねちっこい絡み方で嫌な感じを歌六さんが好演)ではありましたが、
周囲に披露していた刀、しかも購入時に甚右衛門から借金をしてまで手に入れた刀で、
その金を借りた相手を斬るとは、なんという短慮かと。
まあ、それは物語ですから置いておくとしましょう。

そうしてあっという間に37年の月日がたちました。
そんなわけで、一年でお役を終えてるんの元へ帰れるはずだった伊織は、越前にお預けの身となり、剣術指南役などをしながら月日を過ごしていました。
一方、るんは伊織との子を幼いうちに病で亡くしており、
それを機に筑前の黒田家で奥女中として奉公し、月日を過ごしていました。
二人とも江戸から遠い、越前と筑前に離れ離れに暮らしていたのです。

37年というあまりに長い月日を経て、御赦しが出て江戸に帰れることになった伊織。
るんも同じく江戸に戻ります。
34歳と29歳だった二人は、71歳と66歳になってようやく再会するのです。
若く見目麗しかった二人は共に白髪となり、老いていました。
家屋もすっかり古くなり、
あの、若木だった庭の桜は大木となって花を咲かせています。

夫婦のように長く歌舞伎の世界で共演してきたお二人だからこそ出せる
しみじみとした、本当にしみじみと熟した夫婦でした。

この「ぢいさんばあさん」がゴールデンコンビで上演されたのは平成6年。
当時40代半ばだったお二人は、どう老けるかが一つの見せ所だったそうです。
今回はお二人とも大詰の場面はほぼ実年齢。
ですから、今回どう若返るかが見せ所ということになります。

若い頃の場面の二人のイチャイチャぶりは本当に若々しかったですし、
晩年の二人の様子は、歩幅やすり足の感じなど、しみじみと良かったのは言うまでもありません。
両方の年代をうまく演じられないと面白くない作品、
熟年夫婦のような50年以上共演してきた仁左衛門さん、玉三郎さんだからこその
すばらしい演目でした。

ちなみに、伊織が甚右衛門を斬る場面は、京都の夏の風物詩でもある川床の設定で
大道具が組まれていました。
これは、仁左衛門さんの御父上のアイデアによるものだそうで、
それを引き継いで、上演されるというのもまた歌舞伎らしい素敵なエピソードだなと感じます。

すばらしきゴールデンコンビ。
お二人は「六月大歌舞伎」でも共演されることが決定しています。
このゴールデンコンビは、これからも機会があるごとに観たいなと強く心に決めています。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「四月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。