紅茶コーディネーターのイノチカが、さまざまな角度から紅茶と共に過ごす時間をご提案するオリジナルエッセイ。
好きなのは紅茶を愉しむしあわせな時間と空間。
一人の時もあれば、大切な誰かと一緒の時も。自宅をはじめ居心地の良い場所でのTeatime。
私の人生の中で、紅茶と紐づく記憶は、いつもしあわせと結びついています。
暮らしに紅茶を取り入れて、日常にもっともっとしあわせな時間を増やしていくことができたなら……。
紅茶にまつわるあれこれを綴ります。どうぞ紅茶を片手にお付き合いください。
《Tea and・・・和の宿で出会った、晩餐会の香り》
5月の爽やかな風に身を任せていると、ふと30年前の結婚式の日を思い出しました。
ちょうど今日のように、青空と新緑の若葉がまぶしい日でした。
あの頃の私は、まさかこんなにも紅茶が好きになるとは思ってもいませんでした。
先日、結婚記念日のお祝いに、二人の想い出の地でもある福岡県朝倉市の「秋月」へ行ってきました。
実はその数日前、横浜で長女の結婚式と披露宴があり、高齢の両親を熊本の実家まで無事送り届けたあと、「お疲れさま会も兼ねて、少しゆっくりしようか」と足を延ばした小さな旅でした。
秋月は、黒田藩のお城跡が残る歴史情緒あふれる町。
“筑前の小京都”とも呼ばれ、静かな街並みと自然が調和した美しい場所です。
緑の中を散策し、川のせせらぎに癒され、美味しい料理をいただきながら、これまでのあれこれを夫婦でゆっくり話しました。
笑ったり、少し涙ぐんだり。
そんな穏やかな時間が、なんともありがたく感じられました。

宿は、わずか6室だけの小さな和風旅館。
もともと料亭だったそうで、お食事処から眺める庭園は、まるで額縁の中の絵画のようでした。
新緑の輝きと、池をゆったり泳ぐ鯉を眺めながらいただくお料理。
器にもこだわりが感じられ、ひと皿ごとに季節を味わうような気持ちになります。

お食事の最後に「珈琲か紅茶、どちらになさいますか?」と聞かれ、何気なくメニューを眺めていると、公式ホームページからの予約特典で選べる紅茶の中に、なんと【北欧紅茶・セーデルブレンドティー】の名前があるではありませんか。
「えっ、ここで出会えるなんて!」
思わず心の中で声が弾みました。
セーデルブレンドティーは、スウェーデン王室から「King of The TEA」の称号を授与された世界的ブレンダー、バーノン・モーリス氏によるハンドメイドブレンド。
セイロン紅茶をベースに、バラやオレンジピール、ヤグルマギク、マリーゴールドなどが使われた華やかな香りの紅茶で、ノーベル賞の晩餐会でも長年提供されています。
最初の一口で、ふんわりと花の香りに包まれ、なんとも優雅な気持ちに。
その時ふと、ティーカップの中に四葉のクローバーの形が浮かび上がっていることに気づきました。
「可愛い…」
そう思いながら飲み進めると、今度はハートの形が。
カップの底にも、小さなハートがキラリと透けて見えます。
実は我が家にも、飲み進めるとハートが現れるお気に入りの有田焼のティーカップがあり、「もしや」と思って尋ねてみると、こちらは有田・波佐見焼の丹心窯の作品でした。
そんな小さな発見もうれしくて、ますます特別な一日になりました。

実は、お料理を運んでくださるたびに宿の若旦那と言葉を交わしていたのですが、私たちが結婚記念日の旅行だと知ると、最後のデザートにサプライズでAnniversaryプレートをご用意くださっていたのでした。
オルゴールとキャンドルの演出まで添えていただき、胸がいっぱいに。
思いがけないあたたかなおもてなしと、遠い北欧の晩餐会の香りに包まれた二人の記念日。
幸せな気持ちに満たされながら、静かでやさしい時間を過ごすことができました。
宿の若旦那に見せていただいた、春夏秋冬の美しい庭園の写真を眺めながら、「今度は紅葉の季節にも来たいね」と夫。
秋の紅葉はもちろん、冬の雪景色や春の桜も美しく、初夏には蛍も見られるそうです。
もし機会がありましたら、福岡から車で1時間ほど。
秋月まで、少し足を延ばしてみるのもおすすめです。
そろそろ、紅茶のお代わりはいかがですか?
やさしい一杯の紅茶とともに、
今日という一日も、小さなしあわせが訪れますように。

