アトリエM_こばやしいちこによるブックインスピレーションエッセイ。たくさん読んだ本の中から一冊をフィーチャーしながらオリジナルエッセイを届けます。
カラスの親指 / 道尾秀介
「カラスだったのか」
人生につまずき、社会からはじかれ、詐欺をすることでしか生きていくことが出来なくなってしまった中年男、いっぱしの小悪党の少女、働かないその姉、その姉をひたすら崇めるだけの若い男、そして、仔猫……彼らは偶然の出会いをきっかけに共同生活を始め、それぞれの傷や事情を理解し合いながら、少しずつ、家族のようになっていく。そして、共通の敵に復讐するため、大計画を企てるのだ。
人に騙され、人生を狂わされて詐欺師に身を落としたとはいえ、決して褒められたこと
をしてきたとは言えない彼ら。しかしいつの間にか彼らを応援してしまっている自分に気
づく。
巧妙な詐欺のトリックの面白さ。気持ちいいくらい伏線が回収されていく爽快感。そし
てさらに顔を変え、家族愛、友情、などが満載の人間ドラマでもある。
終盤、カラスの親指の意味がわかった時、なるほど!と膝を打つ。
カラスって、好きな人には申し訳ないけれど、一般的には、真っ黒な見た目で大きなク
チバシ、ゴミを漁ったりして、ちょっと怖い、嫌われているイメージ……でもだからと
言って、イジメたりしていい理由にはならない。同じ世界で必死に生きているのだ。
つい先日。
職場近くの大きなオフィスビルの植え込みに、カラスのヒナを見つけた。ふわふわで、
目がちょっと青みがかっていた。どうやら、木の上の方にある巣から落ちてしまったよう
だった。用事を済ませてまた通りかかったら、少し移動していた。飛べないけれど、動け
るみたい。ヒナに気づかず、植え込みの横を男性が通ったら、
「ギャーッ」と、勇ましい声で威嚇して、男性を驚かせていた。
気になって、でもどうすることも出来ず、ウロウロしながら、鳥類に詳しい友人に連絡
して(いるのだ、そういう友人が)相談したり、スマートフォンで検索したりしていたら、とにかく、触らないように、と注意された。おそらく近くにいて、ヒナを見守っている
だろう親ガラスに攻撃されることもあるあるから。確かに、上の方に親ガラスかわからな
いけれど、大きなカラスが鳴きながら何羽か旋回している。ヒナもそれにこたえるかのよ
うに鳴き返している。余計にたまらない気持ちになった。
怪我をしているかもしれない、このままだと弱ってしまう。自治体や区役所なんかに連
絡したほうがいい、と言うので、電話してみようとした、その時だった。警備員と、ビル
の管理人らしき人がやって来た。私は、味方を得たりとばかりに、うれしげに、
「あ、このカラスのことでいらしたんですね。今、区に電話してみようと思っていたんで
す。どうします?このまま、私が電話します?」
「そ、うですね。……お願いします……」
というので、私がかけることになった。
弱っているヒナ、場所の説明をすると、そこは会社の敷地内にあたるから、区としては対応できない、今から言う番号にかけてみて欲しい、と言うので、今度はその番号にかけてみた。するとなんと、民間の駆除会社だったのだ! 駆除じゃなくて保護、と思っていたので、慌てて切り、管理人と警備員の人に、
「今、駆除会社教えられましたよ!まったく!このヒナどうしましょう?」
と、その時はまだ味方だと思っていたその人たちに笑いかけた。
「……ずっと問題になっていたのですよ。上から親ガラスも、ヒナに近づく人に威嚇するし、ほら、今もそこにいるでしょう?」
もちろんいる。我が子が心配な親が、上の方から私たちを見張っている。
「……苦情もずいぶん、入って来て、ねぇ……」
最初から、この人たちの雰囲気に、言いようのない違和感を感じてはいた。
「ここからは、我々にまかせていただいて……」
目くばせをし合いながら、私を追い払おうとしている彼らに、
「あの……ころ……さないですよね……?」
と尋ねた。
「……お気持ちはわかりますが」
ごめん、カラス。私は全く無力だった。どうしてあげることも出来なかった。
今でも、この辺りはわりとカラスがいる。朝に、昼に、夕に、カァカァと何か伝えて来
る。
『人間よ。お前たちを許す、とは我々も言えない。しかし、巣から落ちてしまった我が
子、これも運命だとあの子も我々もわかっている。お前が気にかけてくれたことは、伝わ
っているぞ。』
自分に都合のいいように、理解している。
小さな頃から本が好き
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