理由あって週イチ義母宅 PR

もしかしてはじめての電話

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理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。

冷蔵庫を見ると、バナナもヨーグルトも残っている。
おかずもあまり減っていない。まさかのスイカも残っている。
体調が悪そうなわけではない。そもそも異変があれば、ここまでの間にヘルパーさんやデイサービスから報告があるはずだ。
そうなると、何が減ってる? 何を食べていた? と探偵さながらのチェックが同時進行で始まるのだが、
とにもかくにも、昼ご飯用の弁当はペロリと平らげてくれたので、
探偵業はゆるゆると進めることにした。

そんなわけで、今日は買い物に行かなくて良さそうだ。
となると、することが極端に少ない。
月替わりのカレンダー記入も終えたら、することがない。
新聞は、値上げの見出しが大きく載っているため、何度もそれが繰り返される。

しばらく間が空くと、「あなたのお母さんは元気?」と聞いてくる。
「おかげさまで元気ですよ。踊りの練習を頑張っているみたい」
そう答えると、さほど興味はなさそうに
「それは良かったね」と義母。

しばらく間が空くと、「お父さんは死んじゃったものね」と言ってくる。
「お父さんって私の? あのね、殺さないで! 元気なのよ」
「あぁそう。私はおとっつぁんが早く亡くなってしまったから」

そうなのだ。義母の父親は、義母が小学生の頃に亡くなっているのだそうだ。
80代後半まで父親が生きているという経験を、義母はしていない。

しばらく間が空くと、「あなたのお父さんの具合はどお?」と聞いてくる。
「私の父はね、病気してないのよ。元気にしてますよ」
「あぁそう。それは何よりだねぇ」

そんな会話が昼寝の間に繰り返された。
ついに、やることがなさ過ぎて、
「じゃあ母に電話してみようか。私の母と話す?」
嫌がるかなと思ったが、そうでもなかったので母の携帯電話にかけてみた。
……出ない。
「忙しいんだよ」と義母。

今度は実家の家電にかけてみた。
……父が出た。

そこで、びっくりするぐらい久しぶりに私の父と義母が電話で会話することになった。
もしかすると電話は初めてかもしれない。
スピーカーにして、私は父と義母のやりとりをしばし楽しんだ。

すばらしくよそゆきなほがらかな声で義母が言う。
「お元気ですか?」
「おかげさまで元気なんですよ」
「それはいいことですね」
「2日にいっぺんダーツをやっていましてね」
「それはすごいですね、いいですね」

意外なことに会話が成立していた。

その後、
「お宅のおねえちゃんにすっかりお世話になっちゃってね」
「あぁいやいや……でも、変わらずお元気そうな声ですね」
「でも一人は退屈ですから」
「私は退屈な時はテレビに話しかけてるんですよ」
「アハハハ……(しばし間)」

なんだか会話は成立しているが、義母はテレビを見ない。
父はかなりのテレビ親父である。
まあ、いいか。

昭和7年生まれと昭和10年生まれの会話が思いのほか明るく楽しそうな時間になり、
なんだかうれしくなった。

父は外出していた母にこのことを報告するだろう。
私は夫が帰宅後に、この会話を報告した。
義母はこれを誰かに報告することはなく、さらりと記憶の彼方にやっているはずだ。
でも、わずかでも明るく楽しそうな時間が生まれたことは、どこかにほんわり残るかもしれない。

その後は、あの俳優が番組出演中止……という見出しを繰り返す。
見出しだけ読んでいるので、「きっとツライことがあったんでしょう」とコメントしていた。
ツライことがあったのではなく、ツライ状況になっちゃったんだけどね。

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