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きみはいい子 / 中脇初枝

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アトリエM_こばやしいちこによるブックインスピレーションエッセイ。たくさん読んだ本の中から一冊をフィーチャーしながらオリジナルエッセイを届けます。

きみはいい子 / 中脇初枝

ある町で暮らす子どもたちと、その親たち、そして周囲の人々を描いた連作短編集。
学校の先生、子育てに悩む母親、孤独を抱える高齢の女性、幼い頃に母親から虐待を受けた大人の女性、傷ついている子供たち。それぞれの物語は別々だけれど、登場人物たちの人生が少しずつ重なっている。

教師と言う仕事の大変さ……
子どもが、授業中にトイレに行きたい、と言ったら、許可するようにと校長先生に言われるのだ。うん、そこまではわかる。まあ、そうならないように休み時間があるのだが、トイレが近い体質の子もいるだろう。仕方がない。さらに校長先生は、子どもが怖がらないように、言い出した時に、にっこりと微笑んであげなさい、というのだ。うん……まあ、それもヨシとしよう。さらにさらに、校長先生は、「子どもが、やっとの思いで、勇気を振り絞って、トイレに行きたい、と言えたのだから、言い出したことをほめてあげてくださいね」と言うのだ。
「え~?!」と思ってしまった私は、教師にはなれないか。最近の教師は大変だ……と思ったが、この本が出されたのは、今から14年ほども前のことだった!
もっともっと昔、私が小学生の頃は、先生が言うことは絶対。先生の私生活のなんやかんやで機嫌が悪い時に、私たち子どもが、いつもより明らかに激し目に怒られることが多々あった。子どもながらに、先生、ゴキゲン悪い……じゃっかん八つ当たりだよね……って感じても、何も言わず、言えず。そういうものだと思っていた。そしてまだそんなにモンスターペアレントもいなかった。

この連作短編集は、決して明るい話ばかりではないけれど、いや、むしろ心が痛くなる話が多いけれど、誰かが、誰かの救いになっていたり、中には、ちゃんと見てくれている人もいたりする。

私の仕事関係の取引先の方で(Aさんとします)、自分に戸籍がないことが、25歳前後に発覚した、と言う人がいる。結婚の手続で戸籍が必要になり、取ってみたら、びっくり!なかった、というのだ。
そのお話を聞いたとき、私も驚いて、どうして?どうして?そんなことってあり得るの?と、聞きたいことで頭がいっぱいだったけれど、あまりにもデリケートな話題だし、その時の仕事内容は、全く別の件で、Aさんも、ちょっと世間話の一端でポロリと言っただけだったので、聞けなかった。けれど、状況によっては起こりえるらしい。(だからこそ、Aさんがそうだったのだが)たとえば、出生届が出されていないまま育ち、学校生活や日常ではこれと言って問題化せず、就職、結婚、パスポート申請、相続、行政手続きの場面で初めて発覚する、なんてことが。

Aさんが生まれた時、父親にとっても、母親にとっても、どうやらそれは、望まれた妊娠・出産ではなかったのだそうだ。とくに何かされたわけではないのだが、出生届を出すことすらしてくれなかった。文字通り、なぁんにも。
そんな両親だから、きっと可愛がってもくれなかったのだろう。何があったのかはわからないが、Aさんは、大人になってから、正式な手続きを経て、氏の変更許可の申立てをして、父親とも、母親とも違う氏にした。

すべてを受け入れたように、悟ったように、スッキリと微笑みながらそんな話をするA少年も、もう、70歳の素敵な紳士だ。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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