拝啓、ステージの神様。 PR

『SHOWMAN~4番目の影武者』その人生は苦いのか、やがて……

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ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略の場合あり
※ネタバレ含みます

ミュージカル『SHOWMAN~4番目の影武者』を新国立劇場 小劇場で観た。
韓国ミュージカルの日本初演。
あらすじを読むと、なんとも不思議な感覚が漂っていて、興味が湧いた。
音楽監督が国広和毅さんだというのも観たいと思った理由の一つ。
そして、キャストの皆さんがとても個性的かつ実力派ぞろいであることも観るぞと思った理由の一つだった。演奏の方々は、舞台の上方にいて、その演奏姿を観ることができた。

そしてトランペットからこのミュージカルが始まった。
音色がたまらない。もうこの音を聴くためだけに劇場に行ってもいいと思う。
私は作品を観ながら、声はもちろん出さずに何度も心の中で「くぅーっ、いい音!!」とつぶやいた。
キャストはたったの6人。観終わった直後の興奮みたいなものをそのまま文字にするとしたら、
この作品のキャストはこの6人しかあり得ないのでは! と思えた。
私が観たのは開幕2日目、3公演目だったので、この先ますます6人と演奏家たちの息は合って、さらにそんな気持ちになれるのではないかと思う。職業ピエロの老人、ネブラを松岡充さんが演じる。
老人という設定だけど、いわゆる枯れた……という表現だけではない、「どこか神秘的な」みたいな形容をつけたくなる風情だ。
この人は何者なのだろう。そういう興味を登場した瞬間から感じさせた。
そのネブラに出会うのは、スーパーマーケットの店員スア。潤花さんが演じる。
カメラを提げたスタイルのいいその女性は、ネブラからの不思議な依頼をその場のノリで引き受けた。
ハキハキとものを言い、ちょっと打算的な面も持ち合わせた女性。
ネブラからの不思議な依頼とは、ポートレートを撮って欲しいというものだった。
しかも、人生を振り返りながら話す自分を、何度かに分けて撮って欲しいというものだった。あらすじを読んでいた私は、この観劇にカメラマンの友人を誘おうと思った。
仕事柄何人か思いついて、実際に声をかけたりもしてみたのだけれど、都合が合わず
結局当日は一人で観た。

観ながら、ああ、やっぱり誘いたかったな、本物のカメラマンだったらどんな風にこの物語を観たかななどと思ったのだ。

本物の、と書いたからわかることだが、スアはカメラマンではない。
でも、ネブラの依頼を引き受け、しっかりとギャラももらって写真を撮る。

ネブラはどんな人物で、どんな人生を歩んできたのか。
それが物語が進むにつれ、わかってくる。
『SHOWMAN』というタイトルも『~四番目の影武者』の意味もわかってくると、不思議だと感じていた物語(人生)がどんどん苦みを増してきて、口の中がざらっとするような感覚に陥った。
初めに老人として登場したネブラが、影武者としての役割を果たしながらスポットライトを浴びていくシーンは、恐らく実際の照明よりも神々しく見えた気がする。
長年にわたりステージ中央でスポットライトを浴びてきた人だからこその、消したくても消せないオーラ。
じーっと視線を向けられても決して逸らすことはない強さが、ネブラの絶頂期に重なって、苦みはもっともっと増していった。

この2人を支えるのが、さまざまな役を演じる4人のキャスト。
藤岡正明さんは、面接官やクセの強いキャラクターを次々に披露。
万里紗さんは、スアの職場の先輩役で絶妙にいやぁな感じを出したと思えば、別のシーンでは脇からスアに慈愛のこもった視線を送っていたのがすばらしい。
福井晶一さんは、ネブラが影武者となる独裁者を、シルエットと力強い声で見せた。
福室莉音さんは、気持ちのいい歌声と、後半の重要な役でスアとのシーンを盛り上げた。

ノンストップの2時間10分。
ネブラの人生を傍観したり、その人生に偶然にも関わることになったスアの人生も知ることになった時間だ。

物語の後半、ネブラがスアに「私はどんな人ですか?」と尋ねるシーンがあった。
その気持ちがやけに切なくて、また苦みが増した。
偶然のことなのだが、先月、叔父が77歳の生涯を終えた。
同じ頃、97歳の生涯を終えた人もいた。
ネブラの人生を観ながら、聞かれたわけではないのに、彼らの人生はどうだったのだろうと思う。
どんな人生だったのか、ぽつぽつとでも聞くことが出来たなら良かったなと思った。
それぞれの人生、代わりなどない。
そんなことはわかっているけれど、自分は何者でもないと思いながら生きている人は少なくないだろう。
私自身だって、そんな風に思うことがまあまあある。
出来るなら「私はどんな人ですか?」「どんな人生に見えますか?」と聞かれた時、
なにか答えられたらいいなと考えた。
答えは自分の中にあるとしても、なにか言えたらいいなと。トランペットの静かな音色でミュージカルが終わる。
この演奏と、キャストの歌声を聴くために、
そして何も知らなかったある男の人生と、
これからも生き続けるある女性の人生に出会えたことで
苦みはなんともいえないうまみに変わった。

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