アトリエM_こばやしいちこによるブックインスピレーションエッセイ。たくさん読んだ本の中から一冊をフィーチャーしながらオリジナルエッセイを届けます。
イン・ザ・メガチャーチ / 朝井リョウ
今現在でも、若い頃にでも、特定の俳優や歌手、アイドルに夢中になっていた経験のあ
る人は数多くいるだろう。ファンクラブに入ったり、コンサートに行ったり、ちょっとで
も載っている雑誌があれば買って、切り抜いて自分だけの秘密のファンブックなんかを作
ったり‥‥‥いつからか、ダレダレのファンです、と言うのを、ダレダレが推しです、と
言うようになった。でもやる活動は同じ。好きな人を応援する。『推し活』だ。
この作品は、推し活される側、推し活する側、推し活される対象を仕掛ける側、それぞ
れの視点から描かれる、同じようで異なる世界。
大学生活がしっくり行かず、自分のやりたいことも見失いがちな女の子。真面目で、友
人のちょっとした言葉も大きくとらえがちな性格もあって、自分の居場所ややるべき事も
わからなくなってしまっていた。しかし、あるアイドルに出会い、「彼は私と同じだ」と
ばかりに、傾倒してしまう。お金の許す限り、またはそれ以上にCDを買ったり、ちょっと
心配な推し活にのめりこんでしまう。
仕事には楽しさを見いだせないが、職場の同じ俳優を応援する同僚と、仕事終わりに集
まって、部屋で録画した彼の番組を見るのが何より楽しい。しかし、ある報道によって、
推し活の方向が何やら不穏な方へ向かう。
レコード会社勤務のある男性は、いかに、推させるか、いわゆる、ファン達を特定のア
イドルに夢中にさせる仕掛けを施す側だ。同じCDを何枚も買わせるためのストーリーを作
ったり、全部揃えたい!と思わせるグッズを考えたり。別居する娘との関係に悩みながら
、自分の娘と同じような子達を利用しているような気分に罪悪感めいたものを感じながら
日々仕事に励んでいた。
「私たちが彼らを一番にしてあげるんだ」と、ファン達は皆、自主的にやっている。別
にいいのだ、親に嘘をついてもらったお金で推し活したり、行き過ぎたり、見失ったりし
なければ。しかし、中には夢中になるあまり冷静さを失ったりするファンもいる。のめり
込みすぎて、自分でもわからなくなっているのだ。これって、もしかして、ちょっとおか
しいよね……?と気づきそうになっても、あえて、それに気づかないフリをする。せっ
かく見つけたこのコミュニティ、孤独を恐れすぎるあまり、居心地の良いこの場所を失い
たくないのだ。
私も学生の頃、好きなアーティストがいて、同じ人を好きな子とはそれがきっかけで仲
良くなったものだ。
ある朝、高校生の時だ。その友人が登校するなり、目に涙を浮かべて、私のところへや
ってきた。手にはクシャクシャになったスポーツ新聞を握りしめていた。
「結婚、するって…!」
絞り出すように言った。
そう、我らのアイドルの結婚が発表された日だった。
まあ、私たちも、自分たちが彼と結婚できるとは思っていなかったけど、え、思ってい
なかった?うん、いなかったけれど、フラれてしまったようにショックだった。
職場の人の娘さんは、自分の応援しているアーティストのMVを、何回も何回も再生す
るそうだ。見ていない時も。再生回数ウン万回、と言うのに協力していた。
「まったくもって、理解できません」
と、お父さんである彼は言っていたが、ちょっと娘さんの気持ちも、なんとなくわかりま
すヨ・・・・・・と心の中で、私は思ってしまった。
小さな頃から本が好き
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