拝啓、ステージの神様。 PR

声に出さなかったけど『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』

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ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます

テネシー・ウィリアムズの名作『ガラスの動物園』。
この作品に続けて、後日譚として書かれた別役実 作の『消えなさいローラ』が上演されるという。世界初二本立て上演とあり気になっていた。

ローラを演じるのは吉岡里帆さん、母・アマンダを上演台本・演出も努める渡辺えりさん、弟のトムを尾上松也さん、ローラが思いを寄せていたジムを和田琢磨さんが演じる。
だから気になっていた。

『ガラスの動物園』は、日本でも相当数上演されているであろう名作。世界初演は1944年だという。
私は過去に2度しか観ていないが、それでも「演劇を観たーーー!」と大声で言って、慌てて口を塞ぐみたいな経験をした記憶がある。
慌てて口を塞ぐというのは例えで、でも、劇中のローラの繊細な演技とあの家族を包むなんともいえない空気感とラストを観て、そんな風にしなくてはという気分になったのだ。

そして今回の『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』を観た後、
「演劇を観たーーーー!!!!」と大声で言った。もちろん心の中でだけれど、
大きく両腕を突き上げて「ああ、演劇を観たーーーー!!!!おもしろかったーーーー!!!!」と言える感じだった。
劇場内は年配のお客様も多く、きっとこれまで何度も『ガラスの動物園』を観たという方も少なくなかったろうが、これまでと違う『ガラスの動物園』を観た感覚だったのではないだろうか。
演出によって、役者によって、音によってこんなに演劇って違う表情を見せるものなのだなと改めて思う。
忘れてはいけない、観る時代も大きく関係する。

ローラは、足が悪くとても内向的、自分に自信がなく、ガラスの動物園が心のよりどころ。私がこれまで観てきたローラはとにかく、自身がガラスなのではと思うほど、繊細すぎるほど繊細な人だった。
そのローラを客席からもしかしたら腫れ物に触るような目で見ていたかもしれない。

吉岡里帆さん演じるローラのことは、距離を取らずに観ていた。
なぜだろう、殊更繊細に演じ過ぎていない感じがあり、なんなら自分の世界を信じて楽しむ感じがした。
それはきっと演出もあるし、自分の世界を持ち、極度にそのエリアを狭めて生きていくことに違和感を感じなくなった時代のせいなのかなと感じた。

トムは家族のために自分の夢や目標に向き合えない青年。鬱屈していて、でも大人になりきれない感じが見ていてはがゆくもあった。これまで観たトムは、そこが人間くさくて、誰も彼を責めることなんてできないよ、とどこかフォローしている自分がいたように思う。

尾上松也さん演じるトムは、舞台の狂言回し的役割を担っていたこともあり、
全体を通して俯瞰している別の世界の生き物のように見えた。
姉への思いも、母への感情も何かに包んで開けないようにしているような。
それって危険だよ、開けてよ! と訴えるような目で見る自分がいた。
それはきっと演出もあるし、コロナ禍を経験して、低賃金で物価高で、みんなどこか感情を何かに包んで開けていないものを持っているからなのかなと感じた。
事実、私は『ガラスの動物園』を2012年とコロナ禍の2021年に観ているが、2021年はそのレビューを書けずにいた。

渡辺えりさん演じる母・アマンダには、ギザギザした気持ちを抱かなかった。
こういう母ちゃんいるよね、と思った。こういう母ちゃんを大嫌いという娘や息子もいるけれど、こういう母ちゃんなんだもんと肯定する娘や息子もいるよねと思う感じ。
それがいいことなのかどうかはわからないけれど、「アマンダもいろいろきつかったよね」と共感するというよりは、「アマンダ、次は私のところに電話かけてきなよ!」なんて言いたくなる感じ。
単純に年齢がアマンダに近くなっているからということかもしれないが。

和田琢磨さん演じるジムについても同様だ。
「ちょっともう、なんなのよー。ひどいよー」とはならなった。えりさん同様、役者が醸し出す雰囲気もあると思うが、ジムがローラと対峙しているあの少しの時間、
彼は彼女と向き合い、寄り添ったのだよなと、伴走したのだよなと思えたのだ。

作品の大半に音楽が鳴っていたことがそういう感情にさせたのかもしれない。
コントラバス、ヴァイオリン、バンドネオンの生演奏で音が鳴っていた
リズムやメロディーは人の心に少しの余裕と俯瞰をくれるんだなと思う。

休憩をはさんで上演された『消えなさいローラ』は、ローラ役が吉岡里帆さん、渡辺えりさん、和田琢磨さんの回替わりで演じられる。
私は和田さんの回で観た。それで良かったなと思う。それが良かったなと思う。
でも、不思議な感覚ではあるが、吉岡さんで観ても、えりさんで観てもきっとそう思ったことだろう。
ローラの人生は悲劇だったのか、そんなことは考えない。
ローラはローラの人生を生きたんだ。そう思った。

「ああ、演劇を観たーーーー!!!!おもしろかったーーーー!!!!」
紀伊國屋ホールから新宿駅に向かって、サッサと歩く私が声に出さないけど、「  」みたいな気持ちになっていたことを、誰も知らない。
そうだよ、誰も知るわけがないよ……そんな風に思いながら寄り道せずに家路を急いだ。

パンフレットは1,500円。COCOON PRODUCTION作品なので、見慣れたtheatre cocoonの仕様だ。色のトーンや紙質が好き。それにしても最近、昔みたいに広告が入るパンフレット増えたよねー

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