アトリエM_こばやしいちこによるブックインスピレーションエッセイ。たくさん読んだ本の中から一冊をフィーチャーしながらオリジナルエッセイを届けます。
バナナケーキの幸福 / 山口恵以子
お人好しで穏やかな、お菓子作りが上手な女性は、ある日、突然夫に離婚を言い渡され
てしまう。熟年離婚……自分にもう興味は無さそうだなとは思っていたが、まさに青天
の霹靂。法律事務所に勤めているしっかり者の娘と共に、自分の特技のお菓子作りを武器
に、人生を立て直すべく、奔走する。
誠実で丁寧な仕事、またタイミングや運、温かな周囲の人の助けもあって少しずつ前へ
進み、店も人生も新しい形を見つけていく。『再出発』の物語って、なんだか元気が出る。
読みながら、熱いコーヒーに、バターの香ったバナナケーキが食べたくなってしまうこ
と間違いなし。
大好きなパン屋さんがあった。家のわりと近く、月に一回、買い出しに行くホームセン
ターのすぐ近くに店を構えていた。明るくて広々とした店内、豊富な種類の調理パン、甘
いパンも、おかずパンも、プリンやスイートポテトだって、どれも美味しい。 買い出し
の日のランチはここのパンに決めていた。いつも買いすぎて食べ過ぎてしまうけれど、め
んどうな買い出しの後の、ご褒美だった。
そのパン屋さんが、ある日、突然、閉店したのだ。店の前まで行ったら、悲しい張り紙
が……家族みんな、そのパン屋さんが好きだったから、が~っかり。
情報通のご近所さんによると(そのご近所さんも、このパン屋さんのファン)、どうや
ら、社長が事業を広げすぎて、借金がかさみ、どうにもいいかなくなり、従業員もびっく
り、失踪してしまったらしいのだ。
そうかぁ……そうなのかぁ……パン屋さんは無くなってしまったけれど、私たちは
月に一回、ホームセンターには買い出しに行かなくてはならない。横目で、かつて、明る
いパン屋であったはずの暗いお店を見ながら買い物をする数年。不思議なことに、その数
年の間、かなりいい立地であるそのテナントに別のお店が入ることはなかった。
そんな失意の日々も、ある日終わりを告げる。いつものように買物をし、いつものよう
に暗いお店をチラリと見る、ハズだった。少し前から違和感はあった。いい匂いがしてい
たのだ。「とうとう、鼻にまで幻覚が……」なんて思っていたら、そこにパン屋があっ
たのだ。名前は同じ。いや、ちょっと違う。一文字「Re」 が足されている。
驚いて、店内に入る。明るくて広々とした店内、豊富な種類の、以前の記憶となんら変
わらない美味しそうなパン達。ふらふらと、トングとトレーを手にし、この数年を埋める
かのように、たくさんのパンを乗せた。
レジで、お店の方に、
「あの……このパン屋さんって、何年か前、ここにあって閉店した……?」
と思わず聞いた。
「そうなんです!これからもよろしくお願いしますね」
ニコニコだった。
モチロン、パンは美味しかった。
このテナントの大家さんもこのパン屋さんのファンで、
「いつまでも待つよ、君らが帰ってくるまで」
的なことを言って、本当だったら高い賃料が見込めるこの場所を開けていたのだ。
パン職人や、スタッフも、別のパン屋さんで再就職することなく、パートやアルバイト
で、ギリギリの生活を保ちながら、お店の再建、復興に走り回っていた。
とうとう、みんなの願いが叶って、みんなの店が再開したのだ!
テナントの大家さんもこのパン屋さんのファン、ってところからは、私の想像です。
でも、当たらずといえども、遠からずなんじゃないかな?と私は睨んでいる。
小さな頃から本が好き
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